【スポーツエレガンス】NAUTILUS ノーチラスとは【パテックフィリップ】

ノーチラスは、1970年代の時計業界における革新を象徴するモデルの一つです。当時、パテック フィリップは主にドレスウォッチで知られていましたが、オーデマ・ピゲが1972年に高級ステンレススティール製スポーツウォッチ「ロイヤルオーク」を発表したことで、ラグジュアリースポーツウォッチという新しい市場が開かれました。その流れを受け、パテック フィリップもこの分野に参入すべくノーチラスを発表しました。 ノーチラスは、伝説的なデザイナーであるジェラルド・ジェンタによってデザインされました。彼はオーデマ・ピゲのロイヤルオークのデザインでも知られ、ノーチラスの象徴的なデザインも彼の手によるものです。 ジェンタは、ノーチラスのデザインにインスピレーションを得たのは、船の舷窓（ポートホール）からで、これにより特徴的な八角形のベゼルとケースが生まれました。このデザインは、角がはっきりしすぎない、曲線的で柔らかいラインが特徴的で、ベゼルとケースが一体となるフォルムは、他のスポーツウォッチにはない流れるような美しさを持っています。ノーチラスのデザインはその後、ラグジュアリースポーツウォッチのテンプレートとも言える影響を与え、多くのブランドがそのスタイルを模倣しています。 ジェンタは、オーデマ・ピゲのロイヤルオークでも同様のコンセプトを持ち込みましたが、ノーチラスではさらに洗練されたデザインを実現しています。特に、ノーチラスは完全一体型ブレスレットとケースの統合デザインを実現し、これによって時計全体が統一された美しさを持つことになりました。この一体型ブレスレットは、時計製造において難易度が高く、エンジニアリングの傑作とされています。

1970年代は、クォーツショックによって時計業界が大きな変革期を迎えていました。パテック フィリップはこれに対抗するため、伝統的なドレスウォッチ以外に、日常生活で使用できる高級スポーツウォッチの市場を開拓する必要がありました。ノーチラスの登場は、その最前線に立つものとなり、ステンレススティール製でも高級時計としての地位を確立できるという新たな方向性を示しました。 ノーチラスの初代モデルである「ジャンボ」（Ref. 3700）は、当時としては非常に大きな42mmのケースサイズを持っていました。これはスポーツウォッチとしての存在感を強調するものであり、当時の時計デザインにおける「大胆さ」を象徴しています。しかも、パテック フィリップはノーチラスをステンレススティールでありながら高額な時計として位置づけ、その価格戦略が高級感をさらに高めました。

ノーチラスのムーブメントは、パテック フィリップの高度な時計製造技術の結晶です。特に後年のモデルでは、クロノグラフやトラベルタイム、年次カレンダーなど、複雑な機構が搭載されるようになり、単なるスポーツウォッチの枠を超えた技術的価値が追加されました。 キャリバー 240：ノーチラスの初期モデルでは、パテック フィリップの自社製超薄型ムーブメント「キャリバー240」が搭載されました。このムーブメントはわずか2.53mmの薄さを実現しており、当時の技術の最先端を行くものでした。薄型でありながら高精度を保ち、ノーチラスの洗練されたデザインと一致した、技術的な傑作と言えます。 クロノグラフ機構：Ref.5980や5990に搭載された自社製クロノグラフキャリバーは、スプリットセコンドクロノグラフや多機能なコンプリケーションを持つなど、非常に高度な設計を誇ります。クロノグラフを含む複数のコンプリケーションを持ちながらも、ノーチラスのエレガントなデザインを損なわない点が評価されています。 トラベルタイム機構：ノーチラス5990には、トラベルタイム機能が搭載されており、二つの異なるタイムゾーンを同時に表示できます。この機構は、ビジネス旅行者や頻繁に移動するプロフェッショナルにとって非常に便利なもので、スポーツウォッチとしての機能性をさらに拡張しています。

ノーチラスは、1970年代に登場してから40年以上にわたり、その価値を高め続けてきました。特に、Ref.5711/1Aは、市場で圧倒的な人気を誇り、パテック フィリップが2021年に5711の生産終了を発表した際には、中古市場で価格が数倍以上に高騰しました。 5711は、そのシンプルなデザインと、ブルーの文字盤が特徴的です。パテック フィリップは生産数を非常に限っていたため、供給が需要に追いつかず、オークション市場でもプレミアム価格がついています。生産終了により、このモデルはさらに希少価値が増し、時計投資の分野でも一際注目を集めています。 また5711/1Aの生産終了に伴い、パテック フィリップはグリーンダイヤルバージョン（Ref.5711/1A-014）を発表しました。このカラー変更は市場に大きな衝撃を与え、コレクターたちは入手を競い合いました。この短期間で生産された限定的なモデルは、その独自性と希少性からオークションで3000万円を超える価格で取引されています。

ノーチラスは、単なる高級時計を超えてステータスシンボルとしても機能しています。ビジネスエリートやセレブリティの間では、ノーチラスを手に入れることが成功の象徴として見られることも多く、その存在感は時計業界にとどまらず、ファッションやポップカルチャーの世界にも広がっています。著名なセレブリティや起業家がノーチラスを愛用しており、その希少性と高価格帯がそのステータスをさらに高めています。 さらに、ノーチラスは「クォーツショック」を乗り越えた伝統的な機械式時計の象徴とも言えます。1970年代のクォーツ革命に対抗し、パテック フィリップは機械式時計の芸術性と職人技を守り抜きました。ノーチラスは、その時代を超えた職人の技と革新を象徴する存在です。

ノーチラスは、デザインの革新、技術的進歩、そして文化的影響力を兼ね備えた、パテック フィリップの象徴的なモデルです。時計界でのその影響力は非常に大きく、ステンレススティール製高級スポーツウォッチのカテゴリーを確立し、時計史に残る伝説的なモデルとしての地位を確立しています。