素材にほれぼれ、手触りにうっとり　木のハンコたち（その３）

サラリと優しく温かみを感じるような手触りと、見た目の美しさを兼ね備えた木のハンコたち。 実は、木のハンコは大きく分けて2つの種類があります。 素材の持ち味を活かして、そのまま印材に加工したもの。もう一つは、端材を熱圧縮加工して印材に仕上げたものです。 素材の持ち味を活かすということは、素材そのものが優れているということの証です。こうして得られた信頼は、ブランドとしての認知に繋がっています。 今回は知っているようで意外と知らない、ブランド素材で作られた木のハンコをご紹介します。

建材としてもお馴染みです

智頭杉（ちずすぎ）は、奈良の吉野杉・京都の北山杉に並ぶ鳥取県・智頭町のブランド杉です。江戸時代初期から池田藩により、高齢杉の産地として知られていました。 智頭杉は年輪が緻密で細かく美しい木目となり、柾目の良さから強くて歪みや狂いが生じにくいという特質があり、建築材だけでなく内装材や家具材としても大変人気の木材です。 また、樹脂が少なくヤニが出にくい事から、水漏れを起こさない優良材として酒樽に使われていたという歴史があります。 通常の杉材の場合、効率を重視し植林された斜面ごとに伐採するのが普通ですが、智頭杉は用途に合わせて、一本一本丁寧に伐採しています。 そのため、大事に管理された杉林には樹齢が違う杉が不規則に並び、植林地とは違う趣があります。 こうして伐採された智頭杉材は、丁寧に製材・乾燥・養生の工程を経て様々な用途に使われます。 大事に育てられたブランド杉の端材を余すことなく活用した、環境にやさしいサステナブル印材です。 杉材は比較的柔らかい材木ですが、印材用の智頭杉は、製材過程で発生する端材を圧縮・圧延し、印材に適した硬度に加工されたものです。 この加工により、印材に最適な耐久性を実現しました。 誤解されやすいのですが、多くの国産木材加工製品の場合、何か一つの製品を作るためだけに伐採する事はあまりありません。 原木を出来るだけ余さず、柱や壁材などの大きな木材や大きな装飾用の材料、さらに余る端材は大事に集められ、用途に応じた様々な加工を施し、彫刻などの民芸品や箸材などの様々な製品に仕上げられます。 もちろん、印鑑も例外ではありません。端材加工製品ですので、環境にも優しいんです。

特性の硬さが名前の由来

斧折樺（おのおれかんば）は、標高500m以上の山肌に根を張り、年輪が1ミリ成長するのに3年かかると言われる落葉高木です。 成長が遅いため、樹齢を判別できないほど木目が細かくなり、粘りがあり、割れにくいという特性があります。 自然林の中でも数が少なく、成長が遅いため植林もほとんどされず、貴重な木の一つとされています。 「斧折樺」には、艶やかに仕上げた「コーティング」タイプと、木目の美しさ、さらりとした手触りを活かした「無垢材」タイプがあります。 漢字では斧折樺と表記されますが、その字のごとく、斧が折れる程硬い木というのが名前の由来となっています。 国産の木材印鑑の中でも最も比重が高く、水に沈むほどと言われています。 真樺と非常に性質も似ており、磨くと真樺以上の光沢が出ます。 岩手県では昔から「あんちゃ／あんちゃ木」と呼ばれてきました。 これは東北地方の方言の兄や姉を指すのではなく、神の力が宿る「梓」（あずさ）が訛ったものとされています。 長野県では、山の岩地から「峰に張り出すように」育つ事から「みねばりの木」と呼ばれています。 堅くて狂いが少ないため、歯の細かさが特徴の名産品「お六櫛」に加工していています。 雪国全般で、かつては馬そりの材料として重宝されていました。 堅さや木目の緻密さから、ペン等の軸・斧やドライバーの柄・木型・算盤の玉や枠・ステッキ等の日用品、靴べら・箸・しゃもじ、レードル等のキッチングッズ、建築物の土台や敷居や上がり框（あがりがまち）・手すり・ドアノブ等・洋家具、果てはボートのオール（櫂）・馬車の車軸・木魚・木琴などに幅広く加工されています。 その硬さから『夫婦の絆が折れない』といった意味で結婚祝いや、『心が折れない』といった意味から就職や進学祝いに贈呈される事も多いそうです。 由来は不明ですが、昔から金のなる木ともいわれていた為、契約ごとや金銭に関した場面で使うのが良いともされており、実印だけでなく銀行印としても重宝されております。 余談ですが、歌手のビョークの名前は、アイスランド語でカバノキを意味しているそうです。

いかがでしたでしょうか？ 今回は、鳥取県と東北地方の名産・銘木で作られたハンコをピックアップしてみました。 この他にもまだまだ木のハンコはあるのですが、とても長くなってしまいますので、回を改めてご紹介します。お楽しみに。

---------------------------------- ライター：e-はんこ 昭和初期創業のハンコ屋店長。印章文化という良く分からない文化にゆる～く挑んでます。