実印って必要？印鑑登録のメリットとデメリット解説

実印は重要な契約や公的手続きで使用される印鑑ですが、実際にどのような場面で必要になるか、よくわからない方も多いのではないでしょうか。 今回は、実印と印鑑登録の基本的な仕組みから、そのメリットとデメリットを詳しく解説します。 実印を作るかどうかの判断材料に役立てていただき、今後の手続きや準備に備えましょう。

実印とは、法律や行政で認められた本人の意思を証明するための印鑑です。 役所に印鑑を登録し、証明書を発行することで、契約や登記などの重要な場面で「これは本人の意思によるものだ」と保証されます。 特に不動産購入や遺産相続など、法的に重要な手続きでは、実印が必要不可欠となります。

登録印のため、実印には幾つか規定があります。 １． 印面の直径が8mm以上25mm以下の印であること。 当店で取扱っている印鑑は、全て実印登録可能です。 ２． 既製印・縁の欠けている印鑑・ゴム印・浸透印は不可。 印面の磨耗など、経年劣化で印影が変わってしまうため、登録は出来ません。 いわゆる『シヤチハタ』も一種のゴム印なので、登録は認められておりません。 ３． 「姓」もしくは「名」で登録することが可能。 あまり知られていないかも知れませんが、実印は「姓」だけでなく、「名」で登録する事が出来ます。 結婚を機に実印を作り変える方も多いのですが、当店でお作りする実印でも「名」で作られる方が大変に多いです。 もし、これから実印をご検討される場合、ちょっとお考え頂いても良いかも知れません。 ４． 印影は戸籍上の文字であること。 戸籍上、苗字や名前に旧字、異体字などが使われている場合、その字を使った印鑑でないと印鑑登録できません。 例えば「高橋さん」の場合、「高」の字が戸籍上「はしごだか」である場合、通常の「高橋」では印鑑登録出来ません。 これは意外な盲点のようで、戸籍謄本を見て初めて知ったという方も結構いらっしゃいます。ちょっとご面倒かも知れませんが、ご自身のお名前に使われている文字を、戸籍謄本などで確認する事をお勧めします。 ５． ヨコ彫りの場合、印影は「右から左」であること。 例えば「田中さん」がヨコ彫りで実印登録される場合、捺したときの印影が「中田」となっていなければなりません。 「中田さん」の実印は、捺したときに「田中」である必要があります。 ただし、近年はこの「右から左」の規定が緩和され、自治体によっては受付可能な場合もあります。 自治体によって、多少の規定の差がある場合があります。ちょっと変わったハンコを印鑑登録したい場合は、事前に最寄の自治体にご確認下さい。 規定上、素材への言及はされていませんが、とても大事な印鑑ですので、変質しにくい印材をお勧めします。

印鑑登録をすることで、実印を公的に証明された印鑑として使用できるようになります。 特に大きな契約や法的手続きで、本人確認が確実に行われるため、信頼性が高まります。 また、実印を使うことで、契約内容に対する法的な効力も強くなるため、万が一のトラブル防止にもつながります。保証人としての信用力が高まり、不動産売買や融資などでも役立ちます。

実印を作る際のデメリットとして、まずコストが挙げられます。 特に高品質な素材や独自のデザインを選ぶと、一般的な印鑑よりも費用がかさむことが多いです。 また、印鑑登録を行う必要があるため、手続きの手間も発生します。 さらに、実印は法的に強い効力を持つため、使用する場面が限られ、日常的な手続きには向いていません。 実印の用途を十分に理解し、必要な場面でのみ使用することが重要です。

日常的な契約や手続きでは、必ずしも実印が必要なわけではありません。 銀行印や認印で代用できる場合も多く、軽い契約であれば実印を使う必要はありません。 例えば、日常的な買い物の契約や、書類の受け渡しに関しては認印で充分です。 用途に応じて、どの印鑑を使うべきかを判断し、適切に使い分けることが大切です。 詳しくは後述の文章をご覧ください。

実印にかかわらず『押印』『捺印』、そしてサインに関連する『署名』『記名』に関しては、民法や商法などに条文として規定されています。 例えば新商法第32条には、 「この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。」 と、いう記載があります。 ここで、登場した4つの単語『押印』『捺印』『署名』『記名』について、広辞苑では以下のように定義されています。 【署名】文書に自分の姓名を書きしるすこと。また、その書きしるしたもの。サイン。法律上は、自署または自署捺印を原則とするが、商法や会社法においては記名押印でもよいとされる。手形法・小切手法でも同様であるが、記名捺印の語が用いられる。 【記名】署名と区別し、他人が代わって書いたり、印刷したり、ゴム印を押したりして氏名をしるすこと。 【押印】印判を押すこと。捺印。 つまり、法律ではサインと印鑑ではサインの方が法的な効力が強く、サイン単体とサイン＋印鑑の組み合わせで、同等の法的効力とされているというわけです。 サインと記名、押印を組み合わせると、法的効力は サイン＋押印＞サインのみ＞記名＋押印＞記名のみ と、いう順になります。

以下の契約・手続きで実印が必要になります。 ・中古車の個人売買 ・不動産取引 ・銀行融資 ・金銭その他貸借証書・契約書の作成 ・生命保険・自動車保険などの各種保険の加入 ・役場での公正証書作成 ・会社設立する際の公証人役場での定款認証 ・遺産相続 ※印鑑証明書が必要な契約も含みます。 身近な契約も、そうでないものも含みますが、最近では副業として起業される方も増えておりますし、遺産相続などはその時になってみないと実感も湧かない方も多いかも知れません。 銀行で融資を受ける場合、「良い印鑑ですね。」と言われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 銀行マンはハンコをしっかり見ています。 足元を見るとは良く言いますが、実際に見られているのは手元なんですね。 長年ハンコ屋をやっておりますと『予期せぬ相続』で実印を作り直されるお客様にしばしば出会います。 よくある三文判で認印・銀行印と同じハンコを実印登録している方が殆どなのですが、紛失した場合のリスクや複数の三文判との混在で、改めて実印登録をする事になります。 登録に出向く時間も労力も大変なものですので、どうぞ、ご準備はお早めに。

実印を廃止するためには、記名・押印（記名・捺印）が記されている多岐にわたる法律を改正する必要が生じてきます。 また、法律とは別に、商慣習上の問題もあります。 そして、漢字署名（サイン）が本人固有のものであることを証明する手立てが少なく、日本ではまだまだサインの有効性がそれほど高くないこと、印鑑（はんこ）には所有権が伴うので、各種証明がしやすいことから、まだまだ実印は必要とされています。 各種法が一気に改訂され、漢字署名の鑑定が容易に・確実に出来る日はいずれ来るかも知れませんが、現状ではいかがなものでしょう？

---------------------------------- ライター：e-はんこ 昭和初期創業のハンコ屋店長。印章文化という良く分からない文化にゆる～く挑んでます。