ADIDAS vs. PUMA創業者 ～果てしない兄弟喧嘩～【競争と拡大の軌跡】

今、街を行き交う人たちの足元を見てみると「見ない日はない」と言った程目にするであろうPUMAやADIDAS。 スポーツシーンではもちろん、老若男女のファッションシーンでも人気な両ブランドですが、この二つのブランドの創業者が実は”兄弟”で、とても”険悪”な仲だったのは皆さんご存知でしたでしょうか。 その兄弟が産み出した両ブランドの創業からおよそ80年、ブランド間にある確執やその理由について今回は皆様にご紹介していきたいと思います。

二つのブランドの歴史を語る上で欠かせないのが「ダスラー兄弟商会」。 まずは創業者である二人がどのようにして各々のブランドを立ち上げたのか辿っていきたいと思う。 1898年、後のPUMAの創業者であるRudolf Dassler（ルドルフ・ダスラー）、その後の1900年にADIDASの創業者であるAdolf Dassler（アドルフ・ダスラー）が誕生します。 二人が産まれたダスラー家はドイツのヘルツォーゲンアウラハで代々織物業を営む家系でした。 しかし、産業革命の影響で織物業が時代遅れとなり二人の父であるクリストフは靴職人へと転向。妻であるパウリーナも家計を支える為に自宅の裏で洗濯屋を始めました。 幼い二人は父が靴の縫製技術を学ぶ様を見ながら育ったのですが、まさにその影響を大きく受けるわけです。 時は流れ1914年。第一次世界大戦が始まり二人は戦争に駆り出されます。 その後ドイツが敗戦し、兄弟は帰還。 帰還した頃には兄弟の母が営んでいた洗濯屋も、戦時中に洗濯を外に頼む顧客がいなくなった理由から廃業となっていました。 職人気質だった弟のアドルフは廃業となった洗濯屋の跡地に靴作りの設備を集め、靴作りの商売を始めます。 当時、ドイツ国内ではスポーツ自体の地位が低く、アドルフが作るスポーツシューズも需要がないと思われていたそうですが、アドルフのスポーツシューズへの情熱は凄まじく、それは「スニーカー狂」と噂される程だったとか。 しかし、シューズの制作にもお金がかかります。金策に頭を抱えていたアドルフに営業センスが抜群のルドルフが共同事業を持ち掛けます。 アドルフが制作したシューズをルドルフが売るという、「ダスラー兄弟商会」がここに誕生したのです。 冷静で技術志向のアドルフ、情熱的でビジネス志向のルドルフの二人は正反対な性格で度々衝突を繰り返していましたが着々と発展していきます。

1936年に、「ベルリンオリンピック」が始まります。 この年のドイツ選手のほとんどがダスラー兄弟商会のシューズを着用していました。 しかしここで、アドルフは自分のシューズをドイツ選手以外の”ある選手”に履いてほしいと考えます。 その選手の名は「ジェシー・オーエンス」。アメリカの黒人選手で評判も高く、今回のオリンピックのヒーローになると注目されていた選手です。 ライバル国であるアメリカの、しかもスター選手であるということでルドルフは反対しますが、アドルフは独断で彼に近づき自社のシューズを紹介、オリンピックで着用してもらう契約を結びました。 そしてオーエンスは4つの金メダルと5つの世界記録を樹立。この大会でのヒーローとなり、ダスラー兄弟商会のシューズはオリンピック出場者やコーチ、世界中から一躍注目を浴びるようになります。

1939年、ドイツ軍がポーランドに侵攻を開始。それをきっかけに第二次世界大戦が始まり、この戦争によってルドルフとアドルフの対立は決定的なものとなりました。 まず、戦争の影響で彼らの工場にも厳しい規制が敷かれ、会社は閉鎖しないものの、生産数を大幅に削減することになります。 この時期に兄弟の間で業務運営や経営方針について意見の相違が生じ、次第に対立が深まっていったと言われています。​ 1940年、ついにアドルフにも戦争への召集令状が届き、諜報部隊に出頭。ただ、3ヶ月で兵役が免除される事となる。 「ダスラー兄弟商会にアドルフの技術が不可欠」とみなされたのが、理由でした。 しかしこの事実によって二人の関係に大きな亀裂を作ることになります。 元々性格が真反対だった兄弟は不仲になってきていたが、「弟アドルフの方がダスラー兄弟商会には必要」という事が公然の事実となった事がルドルフは気に食わなかったのです。 そしてルドルフは「アドルフが自分をダスラー兄弟商会から追い出そうとしている」と被害妄想を抱くようになります。 そして二人の仲を裂く決定的な出来事が起こります。 1943年、戦争も終盤となり、ドイツも国内総動員体制を取ります。そんな中、アドルフはまた工場での職務のおかげで招集命令を免除されるが、ルドルフは召集される事となる。 「自分だけが召集されたのは自分を追放するためのアドルフの策略だ」 とルドルフは思い込み、ふたりは仲はさらに険悪に。 夜盲症だったルドルフは事務職に就き、他の兵士に比べるとかなりマシではありましたが、ただ、兵役を逃れた弟に対しての怒りが収まらず、ついには「工場の閉鎖を求める」といった意図の手紙をアドルフに送ったのです。 半年後、ルドルフの思い通りとなり、ダスラー兄弟商会は閉鎖する事となり二人の共同事業は終わりを迎えます。

1945年、戦争が終わりを迎え、ルドルフは戦争時の保安諜報部に勤務し、傍聴活動と検閲を行った容疑で連合軍に逮捕されます。 本人曰く、「任務を命じられていたが、拒否した」と実際には諜報活動を行っていないにも関わらず逮捕され困惑します。 しかし、ルドルフの逮捕は誰かの告発によるものだと米国兵士に聞かされます。そしてそれはアドルフによるものだとルドルフは決めつけます。 逮捕から約１年、解放されたルドルフの怒りは頂点を迎えます。 連合軍に戦時中のダスラー兄弟商会の活動について聞かれると、この時とばかりにアドルフを非難したのです。 しかし世間の嫌疑がアドルフへ振りかかることはなく、この結果をもってダスラー兄弟は完全に決別することになります。 この翌月にはそれぞれが自分の会社を設立。 アドルフは自分の愛称の"Adi"、さらにはファミリーネームである”Dassler”を加えた「ADIDAS（アディダス）」 ルドルフもまた、自分の名前を省略した「RUDA」（Rudolf Dasslerの略）を設立しました。 ※後に親しみやすくPUMAに変更。 今からおよそ80年前の1948年、こうして両ブランドの誕生となりました。

いかがでしたでしょうか。 確執から生まれた両ブランドですが、現在では世界的なスポーツブランドとして確固たる地位を築いています。 しかしながら、兄弟喧嘩でここまで世界的に成功できるのはビジネスとしても成功の象徴とも言えますね。 そんな両ブランドですが、当時から発売されている代表的なモデルを紹介して最後にしたいと思います。 年代から見るとこの時代から発売されていたのかと驚くモデルも多いので是非購入の参考にしてみてください。

・スウェード（Suede） 1968年に誕生した「スウェード」は、プーマを代表するモデルの一つです。 当初はトレーニングシューズとして開発されましたが、シンプルで洗練されたデザインと上質なスウェード素材が特徴。 バスケットボール選手やストリートカルチャーのアイコンたちに愛用され、ファッションシーンでも高い人気を誇っています。 このシューズは、アディダスとプーマの創業初期における代表的なモデルであり、スポーツシーンだけでなく、ファッションやカルチャーにも大きな影響を与えてきました。 ・パレルモ（Palermo） 1980年代初頭に登場したアーカイブモデルで、イタリア・シチリア島の首都であるパレルモ市にちなんで名付けられました。 このシューズは、イタリアのバカンスを思い起こさせるデザインが施されており、発売当時からサッカースタジアムのテラス席で人気を博しました。

・サンバ（Samba） 1950年に登場したサンバは、アディダスの最も古いモデルの一つです。 ここ数年のファッションシーンではかなり街中でも履いている人が増えました。 当初はサッカーシューズとして設計され、凍ったピッチでも優れたグリップ力を発揮するようデザイン。 モデル名は、1950年に開催されたワールドカップの開催国であるブラジルの音楽「サンバ」に由来しています。 ・ガゼル（Gazelle） 1960年代後半にトレーニングシューズとして誕生。 日本ではドイツ語読みの「ガッツレー」としても知られています。 そのシンプルで洗練されたデザインと高い機能性から、スポーツ選手だけでなく、ストリートカルチャーやファッションシーンでも広く支持を集めています。 特に、スケーターや音楽アーティストなど、多くのカルチャーアイコンたちに愛用されてきました。