時間を置くことで熟成するお酒といえば、ウイスキーやワインを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実は、日本酒にも熟成させて飲まれる文化があります。
それは「古酒」(こしゅ)と呼ばれ、近年国内外を問わず人気が高まっています。時間と共に変化する味わいや色合いをお楽しみいただけます。
ヴィンテージワインやオールドウィスキーのような熟成された高級酒が今世界中で愛されて飲まれています。
実は日本にも、「熟成文化」が古くから伝統文化として存在していました。
日本には麹菌を使う伝統的な酒造りによって造られる日本酒や焼酎、泡盛があります。
多くのお酒は造られてからすぐに出荷する「新酒」で流通していますが、中にはワインやウイスキーのように数年間じっくりと熟成させてから販売するお酒もあります。
その熟成酒のことを日本では古くから「古酒」と呼んできました。
お酒の種類や酒蔵によって、どれくらい熟成したものを古酒というかは異なりますが、一般的には3年以上熟成させたものを古酒ということが多いです。
なかには50年を超える極めて希少な古酒も存在しています。
西暦500年頃から、日本の皇室では、御祝いの儀式のお祝い酒として古酒を使用してきました。
西暦1200年頃の鎌倉時代、多くの寺院や公家の書物において”古酒”に関する記述が見られたそうです。
そこから江戸時代に入ると日本酒自体がより広く大衆に親しまれるようになる中、当時の最高峰のものとして古酒が位置づけられていました。
特に古酒の中でも「九年酒」と呼ばれる9年熟成ものは、当時の上質な新酒と比べておよそ3倍以上の値で取引されていたほど。
古酒が高級酒として認められてきた日本ですが、1800年代後半の酒税法の改正などにより、古酒を残す酒蔵が激減してしまいました。
それから100年近くは、古酒をつくる酒蔵はほとんど現れませんでしたが、大変喜ばしいことに、近年では徐々に古酒をつくる酒蔵が増えてきています。
酒税法の改正から70年足らずのため、 全国に1,200ほど存在する酒蔵にも、熟成酒を作る蔵はごくわずかです。
古酒は、全新酒生産量の中のわずか0.001%だけの大変希少なお酒なのです。
世界的にメジャーなワインやウィスキーの熟成と同様に、日本酒や焼酎、泡盛も適切な管理の中で熟成が進むと、まろやかさが生まれ、そして芳醇な香りと複雑な味わいに変化をしていきます。
全てのお酒に共通するのは、物理熟成で、熟成によりアルコールと水が馴染み、カドがとれてまろやかな口当たりに変化します。
また、醸造酒である日本酒は、他にはない素晴らしい化学熟成を引き起こします。
米と麹と水から作られる日本酒は、他の醸造酒と比べてもより多様な成分を含むためです。
代表的な糖とアミノ酸の化学反応である「メイラード反応」では、含まれる成分量や熟成温度、熟成期間に応じてゴールドに輝く色合いから琥珀の深い色合いまで様々な美しい表情をみせてくれます。
また、熟成することで香りと味わいも変化していきます。
シェリーやポートワインのような、熟成による芳醇なアロマを持っています。
その他に、
・カラメルやドライフルーツ、蜜のような甘い香り
・ナッツやトーストのような香ばしい香り
・はちみつや果実のようなフルーティーな香り
など様々な香りをみつけることができます。
日本酒好きはもちろん、ウイスキー好きにも好まれる味わいです。
【濃熟タイプ】
本醸造酒または純米酒を常温で熟成させたタイプを、濃熟タイプと呼びます。
熟成を重ねるにつれ、色や香り、味わいが劇的に変化していき、ねっとりと濃厚な旨みとコクが感じられます。
【中間タイプ】
本醸造酒・純米酒・吟醸酒・大吟醸酒を使い、常温熟成と低温熟成を併用して造られるのが、中間タイプの古酒です。
常温から低温、低温から常温と熟成方法を併用することで、濃熟タイプと淡熟タイプをあわせ持ったような香りと味わいになります。
中間的な味わいなので、古酒を初めて飲まれる方におすすめです。
【淡熟(たんじゅく)タイプ】
吟醸酒や大吟醸酒を低温で熟成させた古酒を、淡熟タイプと呼びます。
低温でじっくりと熟成させるため、吟醸酒や大吟醸酒の持ち味が残る香りや味わいを持っています。
熟成によって程よい苦味や旨味がバランスよく調和した、深みのある味わいを持つ古酒です。
日本酒の中でも隠れた人気を誇る古酒。
日本酒=フレッシュというイメージを覆す、芳醇で妖艶なアロマを呈した古酒は一度味わって見る価値は大いにあります。
近年の世界各国での日本酒ブームも相まって、今後再び昔のように”高級酒”として脚光を浴びる日も近いかもしれません。
皆さんもぜひ当記事をきっかけに、古酒の世界に足を踏み入れてその魅力を堪能してみて下さい。