フェリチン鉄と無機鉄・ヘム鉄の違い

鉄は人体にとって非常に重要なミネラルであり、酸素の運搬やエネルギー生成、免疫機能の維持などに関与しています。鉄の欠乏は貧血や疲労感を引き起こす可能性があるため、適切な鉄の摂取は重要です。鉄にはいくつかの形態が存在しますが、その中でもフェリチン鉄は近年特に注目されています。フェリチン鉄は、無機鉄やヘム鉄と比較して、吸収効率や健康への影響が異なるため、特に経口摂取において優れた選択肢とされています。

まず、鉄の一般的な形態として無機鉄とヘム鉄があります。 ■無機鉄 無機鉄は、植物性の食品や鉄剤に含まれており、体内での吸収率が比較的低いです。無機鉄は、胃酸の助けを借りて二価鉄に還元されてから腸で吸収されます。しかし、他の栄養素や食品成分との相互作用が強く、フィチン酸やタンニンなどの吸収阻害因子が多い場合、吸収効率がさらに低下します。 ■ヘム鉄 ヘム鉄は、動物性食品（主に赤身肉やレバー）に含まれており、無機鉄に比べて吸収率が高いです。ヘム鉄は、腸内でそのままの形で吸収されるため、吸収阻害因子の影響を受けにくいという利点があります。 一方で、これらの鉄にはデメリットも存在します。無機鉄は吸収が不安定であり、過剰摂取による副作用のリスクが高まることがあります。また、鉄が体内で酸化を引き起こし、フリーラジカルが発生することも懸念されます。ヘム鉄についても、過剰摂取が心血管疾患や糖尿病リスクを高める可能性があるとの指摘があります。

フェリチン鉄は、無機鉄やヘム鉄とは異なる構造を持つ第三の形態の鉄です。フェリチンは、体内で鉄を安全に貯蔵するためのタンパク質で、鉄イオンを効率的に包み込み、酸化を防ぐ役割を果たします。食品中に含まれるフェリチン鉄は、特に豆類や一部の野菜に多く含まれていますが、これまであまり注目されていませんでした。 フェリチン鉄の吸収メカニズムは、無機鉄やヘム鉄とは異なります。フェリチン鉄は、そのタンパク質構造ごと腸内で吸収され、鉄イオンに還元されることなく、効率よく体内に取り込まれます。これにより、他の栄養素や吸収阻害因子の影響を受けにくいという特長があります。吸収されたフェリチン鉄は、すぐに体内で利用されるか、肝臓や骨髄に貯蔵されるため、必要なときにすぐに使える形で蓄積されます。

フェリチン鉄が他の鉄形態に比べて経口摂取に優れている理由は、いくつかの点に集約されます。 1. 吸収率の高さと安定性 フェリチン鉄は、その特有の吸収メカニズムにより、他の鉄よりも効率的に吸収されます。無機鉄やヘム鉄は、吸収の際に食品成分の影響を受けやすいですが、フェリチン鉄はその影響をほとんど受けません。これは、フェリチン鉄がタンパク質に包まれているためであり、安定した吸収が可能です。また、フェリチン鉄は過剰摂取のリスクが低く、吸収が体内の必要に応じて調整されるため、過剰な鉄が体内に蓄積される心配が少ないのも魅力です。 2. フリーラジカルの発生を抑える フェリチン鉄が他の鉄形態に比べて特に注目される理由の一つは、吸収時にフリーラジカルが発生しないことです。無機鉄は体内で酸化しやすく、フリーラジカルを生成します。フリーラジカルは細胞を傷つけ、老化や病気の原因となることが知られています。これに対して、フェリチン鉄はそのタンパク質構造によって鉄を安定させ、酸化を防ぎます。このため、フェリチン鉄は体内で安全に利用され、酸化ストレスを引き起こさない優れた鉄供給源となります。 3. 貯蔵鉄としての効率性 フェリチン鉄は、体内に入るとすぐに貯蔵鉄として活用される点でも優れています。鉄は通常、体内に貯蔵されると肝臓や脾臓、骨髄などに蓄えられ、必要な時に使用されますが、フェリチン鉄はそのまま体の貯蔵システムに組み込まれるため、効率よく鉄不足を防ぐことができます。これにより、貧血の予防やエネルギー代謝の改善に役立つため、特に鉄分不足に悩む人にとって理想的な選択肢です。 4. 過剰摂取の心配が少ない 鉄分の過剰摂取は、体内に鉄が蓄積されることで有害な影響を引き起こす可能性があります。特に無機鉄やヘム鉄は、過剰摂取によって消化器系の不調や酸化ストレスを引き起こすリスクがあります。しかし、フェリチン鉄は体内での鉄貯蔵量に応じて吸収が調整されるため、過剰摂取のリスクが非常に低いのが特徴です。これにより、フェリチン鉄は長期間にわたり安全に摂取できるサプリメントや食品成分として非常に優れています。

フェリチン鉄は、無機鉄やヘム鉄と比べて吸収率が高く、体内での安全性が非常に高い鉄供給源です。その特異な吸収メカニズムにより、他の栄養素の影響を受けにくく、酸化ストレスを引き起こさず、過剰摂取のリスクも低いという多くの利点があります。これらの特性から、フェリチン鉄は特に経口摂取に適しており、鉄分不足に悩む人や、鉄のサプリメントを摂取している人にとって、最適な選択肢といえるでしょう。