冷や汁でつながる親子の約束 ― 仕事ばかりだった父と和解した夏
公開日:2025/04/18 更新日:2025/04/18子どもの頃の記憶をたどると、父はいつもスーツ姿で玄関を出ていく後ろ姿だった。
朝食も夕食も、ほとんど一緒に食べた記憶がない。
帰宅しても無口で、疲れているのか、テレビをぼーっと眺めるだけ。
私は、どう接すればいいのかわからなかったし、次第に「どうせ、こっちのことなんて興味ないんでしょ」と心を閉ざすようになっていった。
それでも、母がつくる冷や汁だけは、家族が揃っていた頃の記憶とつながっていた。
「ほら、冷や汁よ〜、早よ座って」
母の声に渋々座る私。無言で箸を動かす父。
味は美味しいのに、空気はいつも少しだけ冷たかった。
高校卒業後、地元を離れて就職した私は、父との関係をそのままにしていた。
連絡は年に数回。帰省しても会話は少なく、「元気か」「うん」で終わる程度。
けれど、社会人になってから、仕事の厳しさやプレッシャーを知るたびに、あの頃の父が何を背負って働いていたのか、少しずつ想像できるようになっていった。
「なんで、もっと話してくれなかったんだろう」
「俺は、父に何も伝えようとしなかったかもしれない」
そんな気持ちを抱えたまま、また夏がやってきた。
母からの電話で、思わず耳を疑った。
料理なんて一切しなかった父が?冷や汁を?
帰省すると、台所にはぎこちなくすり鉢を回す父の姿があった。
魚を焼いて、味噌をあたり、ごまを混ぜる。
手際は悪いけれど、懐かしい香りがふわりと立ちのぼる。
「…母さん、忙しいらしいけん。ちょっとやってみた」
照れ隠しのように言う父の声に、私は思わず吹き出してしまった。
食卓には、冷や汁と、炊きたてのごはん、きゅうりの漬物。
3人で並んで座るのは、いつぶりだろう。
「味、どうや?」
父がぽつりと聞いてきた。
「…母さんのより、ちょっと塩が強いかな。でも、うまいよ」
そう返すと、父はほんの少し、照れたように笑った。
「…おまえも、大変やろう。社会に出るってのは」
「…うん。でも、お父さんも、あの頃は大変だったんやろ?」
会話が途切れ途切れでも、不思議と心が通っていく。
父と真正面から言葉を交わすことが、こんなにあたたかいとは知らなかった。
その夜、父がぽつりと言った。
「来年は、もうちょい上手に作るわ。…また一緒に食おうや」
その一言に、胸がぎゅっと締め付けられた。
冷や汁の味は、決して完璧じゃなかったけれど、心に染みる、人生で一番やさしい一杯だった。
あの夏、私たちは冷や汁を通して「親子」に戻れた気がする。
一杯の冷や汁が、親子の心を少しずつほぐしてくれることがあります。
会話がうまくできなくても、表情がぎこちなくても、「一緒に食べること」から始められる和解があります。
私たちミート21の冷や汁は、そんな“つながりの場”になることを願ってつくっています。
家庭の味、記憶の味、そして、和解の味。
あなたも、大切な人と、もう一度“はじめの一杯”を囲んでみませんか?