冷や汁に込められた家族の物語ー小学生の夏休み中に食べたお昼ごはん
公開日:2025/04/21夏休みの昼間といえば、ゲーム、宿題、そしてお昼ごはん。
でもうちの家では、クーラーもゲームもなし。
聞こえてくるのは、セミの大合唱と、おばあちゃんの「昼ごはんできたよ〜」の声だけ。
そんな夏、毎日のように出てきたのが「冷や汁」でした。
「え、冷たい味噌汁? なんで?」
最初はちょっと不思議だったんですよ。
だって、味噌汁って熱々じゃないと。
でも一口すすった瞬間、世界が変わった。
焼いたアジの香ばしさ、すり鉢で丁寧に溶かした味噌のコク、冷たい出汁がスーッと体に染みる。
しかも、キュウリのシャキシャキ、豆腐のやさしさ、シソの爽やかさが夏の暑さをなだめてくれるんです。
「……うまっ」
気づいたらおかわりしてました。
しかも3杯。
「今日はピーナッツ入りにしといたからね」
「明日は麦ご飯にかけようかね」
「ちょっとシソ多めにしたからさっぱりやろ?」
おばあちゃんの冷や汁は、毎日同じようで、毎日ちょっと違う。
まるで“夏休み版の隠し味ルーレット”。
後で知ったのですが、地域や家ごとに具材や作り方も違うらしく、おばあちゃんは近所のおばちゃんたちと“冷や汁サミット”をしていたとか。
やるな、おばあちゃん。
冷や汁にはいろんな“授業”が詰まっていました。
・食欲がないときでも食べられるごはんの知恵
・火を使いたくない猛暑日の台所テクニック
・冷たいものでも「心があったかくなる」ことがあるっていう不思議
そしてなにより、
「誰かのためにごはんを用意する」ってことの、ありがたさ。
カレー、チャーハン、焼きそば……夏休みのお昼ごはんにはライバルも多い。
でも冷や汁は、なんというか“背番号なしのヒーロー”。
派手さはないけど、必ずチームを勝利に導くタイプ。
食後の汗がひいて、「さぁ、午後も遊ぶか!」って気分にさせてくれる。
そんな、夏の味方でした。
大人になった今。
コンビニ冷や汁、レトルト冷や汁、はたまた「冷や汁風冷やし中華」なんてものまで登場しているけど…
やっぱり、あの夏のおばあちゃんの冷や汁には敵いません。
もしタイムマシンがあったら?
真っ先に、小学生の頃の昼ごはんに戻りますね。
冷や汁をズズッとすすって、セミの声を聞きながら昼寝して…そんな何でもない、でも最高の夏。
冷や汁は、ただのごはんじゃない。
あれは、夏の思い出をすくって食べる“スプーン型の記憶”だったのです。