冷や汁に込められた家族の物語―おばあちゃんの笑顔編

真夏の昼下がり。 クーラーも扇風機もない田舎の台所で、おばあちゃんが笑いながらすり鉢を回していたのを、今でも覚えています。 「冷や汁はね、心も冷やしてくれるんよ」 そう言って、煎った麦味噌とすりごまを丁寧にあたり、焼いたアジをほぐして混ぜていく。 最後にきゅうりと豆腐を加え、井戸水で冷やして、ご飯にかける。たったそれだけの素朴な料理。 けれど、汗びっしょりの体に、その一杯がじわぁっと染み込むと、思わず笑顔がこぼれるんです。 その笑顔こそが、おばあちゃんの得意料理、冷や汁のいちばんの隠し味でした。

大人になり、都会で働く日々のなか、冷や汁のことなんてすっかり忘れていました。 仕事に追われ、コンビニ弁当で済ませ、季節感も味わいもどこか遠いものに。 そんなある日、久しぶりに実家に帰ると、仏壇の前に小さなすり鉢が飾られていました。 おばあちゃんが亡くなってから、初めてのお盆でした。 母がぽつりと、「あんた、冷や汁好きやったよね」とつぶやいたのがきっかけで、久しぶりに作ってくれた一杯の冷や汁。 懐かしい味。けれど、どこか違う。 味噌の香ばしさ、魚の旨味、冷たさ、全部同じはずなのに、胸の奥がぎゅっと締め付けられたのは、そこに“おばあちゃんの笑顔”がないからでした。

その日から、冷や汁は「ただの郷土料理」ではなく、「家族の記憶」になりました。 おばあちゃんが愛情を込めて教えてくれた“食べることの意味”。 それは、誰かのために作ること、季節を味わうこと、そして一緒に食卓を囲むことでした。 今では、自分も子どもたちに冷や汁を作るようになりました。 「これ、ばあちゃんが作ってたんだよ」 「えー、魚入ってるの！？うそー！」 「でも、うまい！」 小さな笑い声と一緒に、味の記憶はまた次の世代へつながっていきます。

冷や汁は、帰る場所の味です。 暑さにやられた日、心が疲れた日、ひとりぼっちだと感じた日。 一杯の冷や汁が、「おかえり」と優しく迎えてくれる。そんな料理です。 私たちミート21では、この“帰る味”を、できるだけ多くの人に届けたいと思っています。 簡単に作れて、すぐに食べられて、だけどちゃんと本格的で、あたたかい記憶がこもった冷や汁。 今は亡きおばあちゃんの笑顔を、そっと一口にのせて——。 今日もまた、誰かの食卓に、小さな「ただいま」が届きますように。