お知らせを表示するにはログインが必要です。このエリアでは、楽天市場でのお買い物をもっと楽しんで頂くために、あなたの利用状況に合わせて便利でお得な情報をタイムリーにお知らせします!
ようこそ 楽天市場へ

TONEISM Pickups 代表 岩撫安彦氏スペシャルインタビューPart2

公開日:2025/02/04 更新日:2025/02/06
~ Part1からの続き ~
岩撫氏: 製造工程や材料の違い、そして製造後の経時変化が複雑に組み合わさって生まれた様々なトーン・ニュアンス、ピッキング・レスポンスのパターンを、いくつかの軸に分けてラインナップとしています。掴みどころがないと感じる方も多いビンテージ・ピックアップですが、このラインナップを作る時に心がけたことはその奥深さ、その中にある一定の法則、パターンを浮き彫りにし、プレイ・スタイルとのマッチングをしやすくする、欲しい音を見つけやすくするということです。 具体的には、当時使われた数種類のマグネットをキャラクターの土台として考え、そこにファイン・チューンしたコイルを絡めていく、という手法をとりました。 マグネットについて、もともとアルニコ磁石は鋳造で、その際砂型を使うので表面にざらつきが残ります。これを削って取り除いたものが今は一般的ですが、ビンテージ・ピックアップにはその鋳肌が残ったラフキャスト、と呼ばれるものが使われていました。独特のニュアンスを持ち、ヴィンテージ・トーンの土台となる部分なので、わたしはこのラフキャストをスタンダードとして使っています。 ビンテージ・ピックアップでは種類ごとの磁力にも“ばらつき”があり、これも見方を変えれば仕様の違い、ととらえる事ができます。そしてチューニングという点では種類にかかわらず磁力の調整は欠く事のできないポイント、とわたしは考えています。なぜかといえば、マグネットの磁力が弦振動のふるまい、特に高次倍音を作り出す部分に干渉するからです。磁力が強いほどその干渉の度合いは強くなるので、倍音を生かしたければ磁力をコントロールする必要があるわけです。やり方としては、いったんフル着磁してマグネット個体の性質を調べ、その後目的に合わせて磁力をすこしずつ落として調整をする、というものです。
コイルのチューニングにはいくつかのポイントがありますが、まとめるとワイヤーのゲージとコイルの巻き方の二つです。 まずゲージはAWG42、AWGはアメリカンワイヤーゲージ、42は線径を表しますが、同じAWG 42規格の中でもわずかに線径の違うものを数種類用意しています。ビンテージ・ピックアップの作られた時代には、規格の基準がいまほどタイトではなかったことも関係して、使われたワイヤーの線径にばらつきがありました。AWG42 の許容誤差の範囲ではありましたが、それが出音の“ばらつき”を生む要因の一つとなりました。ごくわずかな差といっても、一つのコイルあたり数千ターン巻かれた時には無視できない違いとなります。数種類を使い分けるというのはその微細な違いを、仕様としてコントロールしようというアプローチです。 巻き方、についてはコイルのターン数と密度のコントロールですね。これはビンテージ・ピックアップでは”ばらつき”がとくに多くみられる部分で、それは主に時期によるコイル・ワインダーの種類とその設定の違いから生まれたものです。ターン数の違いは一般に言われる出力の違いだけでなく、アタック感、音の太さ、伸び、輪郭等の違いとなってあらわれるので、そのコントロールは重要なポイントです。歴史的に見ると60年代初期以前のものにはターン数の”ばらつき”の傾向が強く、またその時期には組み合わせた2個のコイルにもそれが“ずれ”となって反映されているので、そこにも別の角度からのチューニング・ポイントがあります。
コイル密度の違いも “ばらつき”の要因の一つで、ターン数と共に”音の質感“に影響するので、わたしにとってはトーン再現にあたって、コントロールしなければならない仕様のひとつです。横方向ではボビン回転中にボビンの端からもう一方の端まで”ワイヤーを送った“とき、つまりコイル一層ごとのターン数、TPLを何回とするか、これで隣り合うワイヤーの間隔が決まります。縦方向では巻いているときにワイヤーにかけるテンションが上下の層の間隔に影響します。コイル全体として見ると、密度はこの二つが合算されたものとなります。 こういった様々な違いを“仕様“として実現するためには、まずそれぞれの要素を細かくチューニングできるコイル・ワインダーがどうしても必要となります。実際そういった理由から、今回ピックアップ製作を開始するにあたっての最初の仕事は、それができるようなカスタム仕様のマシーンを、新しく土台から設計して作る事でした。
岩撫氏: 製作を始める前の段階で、特に海外アーティストのライブコンサートや新しくリリースされたばかりのレコードなど、ロック・ミュージックがメージャー・ジャンルになっていく時期に当時のピュアな音源に直接触れることができたのは幸運でした。アーティストの動きを追うように自分も機材を変え、その体験から楽器がプレイ・スタイルを変える、という事にも気づかされました。 今までの長い時間をかけた研究とたくさんの歴史的資料、海外での資料集めや取材で得た情報と、生で触れた音源から培ったギタリストとしての感性からは私なりの独自の観点、アプローチが生まれます。 こうした事を背景とした私のピックアップづくりの姿勢は、ギター製作と同様、組み合わされる機材、プレイ・スタイルを考えながらディテイルを研ぎ澄ましていく、というものだと思います。
岩撫氏: ビンテージ・ピックアップの基本を大切にしながら、それが経てきた歴史を深く理解し、原点とその進化した姿を可能な限り正確に表現する。 それが私のビルダーとしての姿勢です。そのため、設計思想を根本的にいじることはしません。その思想を尊重しながら、新しい角度で価値を見出し、次の世代へと繋げていくことを心がけています。 基本となる設計は、セス・ラバーが手がけ完成したものですが、これは1パーツの域を超え、音楽にとってはヴァイオリンのストラディバリウスに匹敵するほど重要な遺産だとわたしは思っています。彼の設計から生まれたハムバッカーは音楽そのものに染みこんで一体となり、その進化に大きな影響を与えたからです。 ですからその設計を乱暴に変えることは、私の中では絶対にあり得ません。基本は基本として守り、その設計思想を壊すことなく、発展させて未来に繋げていくことが私の考え方で、役目だと思っています。
岩撫氏: そうですね、ギターをフィーチャーした新しいロックの立ち上がり時には、オーバードライブ・トーンとシンギング・サスティーンが必要でした。ブルースをベースとして始まったこのころの新しい音楽ジャンルとしてのロックには、繊細さと大胆さの共存する幅広い表現力が求められました。 そこではこのハムバッカー・ピックアップとマーシャル・アンプが大きな役割を果たしましたね。特に60年代中期、KT66からEL34にパワー管が変わってからのマーシャル・アンプのハードなトーンと、どちらかといえばソフトなトーンのハムバッカー・ピックアップとの相性は抜群で、そこからは多くの伝説的名プレイも生まれました。 勿論、フェンダー系アンプでもブリティッシュではピーター・グリーン、USA勢ではマイク・ブルームフィールド等が歴史的音源を残しています。私はそのころそのムーブメントに影響されてギターを弾き始めていたので、その歴史と共に歩んで体感できた、といった感じですね。 それからその間、様々なアーティストが機材を変えていくうちに演奏スタイルが変わっていくのも目の当たりにしました。 自分がプレイヤーだった時にも楽器によってフレーズやスタイルが無意識のうちに変わってしまうのを体験しましたから、ああ、それはそういうことだったのだな、と後でわかりました。ピックアップはあまり表面には出ませんが、ミュージシャンが自分のスタイルを確立する上で、とても大事な役割を果たしていたのです。
岩撫氏: オリジナルの設計思想や時代背景から理解する、という意味では初期も現在もコンセプトは同じですね。
岩撫氏: 確かにそういうユーザーは多くいらっしゃると思います。すでにある程度のレベルの音は出せるのだけど、もう一押し自分の好みに近づけたい、という方や、いろいろ試したけど好みの音に中々たどり着けないので何とかしたい、あるいは自分が理想とするカスタムな音が欲しい、という方々だと思います。 先ほどもお話ししたように、ギター本体、ネックや他のパーツを含むという意味ですが、それとピックアップ、プレイ・スタイルがマッチするのが理想形です。プレイヤーにとって無理のない、気持ちよく弾ける、表現の幅が広がる形、とも言えます。そういうユーザーの方々がその理想形に早くたどり着けるようにできる限りサポートしたい、というのが私の思いです。
プレイヤーのタッチに敏感に反応し、感情の動きを余すところなく表現するビンテージピックアップ。 オリジナルの優れた設計を土台としながらも、その数十年にわたる歴史の中では数多くの製造手法の変化がありました。またそれらの個体がギターに組み込まれて世に出た後も部材に様々な経時変化が起こり、実質的にはスペックが変わりました。ビンテージピックアップの大きな特長とも言える多くの個体バリエーションは、時の流れの中でこの二つのファクターが重なりあう事で生み出されていったのです。 そのバリエーションの中でも選び抜かれた数少ない個体は、その高度な表現力でプレイヤーと一体となり、多くの聴衆を魅了してきました。ビンテージ・ピックアップは単なるパーツではなく、ギタリストたちがミュージックシーンの歴史を切り拓いていく上での、必要不可欠な力の一つだったといっても過言ではありません。 トーンイズムでは、こうした認識の上で長年にわたって積み上げたビンテージピックアップの分析研究の結果に基づき、代表的なビンテージ・トーンを再現するモデルと、音作りのノウハウを生かしたカスタム・ピックアップを製作しています。
70 年代にギターのリペア、ビンテージのレストアで楽器業界でのキャリアを開始。80 年代にはその経験を生かして製作を開始。その後渡米して米国企業でのカスタム・ギター製作部門勤務を経て帰国。 米国ブランド輸入代理店のアドバイザーを務めた後、自身のギター・ブランドを立ち上げる。その間、ギター関連の雑誌にコラムを持ち、また楽器に関する専門書を執筆。米国で英語版も出版された。 2000 年代には再び米国企業に勤務、アジア圏を含めた多数の国を管轄するなど製作側ではなく運営側で販路の拡大に務めた。日本とアジア市場を統括した日本の子会社のトップとなり、十数年のキャリアを経て独立。長年の構想、研究の集大成ともいえるピックアップの製作、販売をトーンイズムとしてローンチするに至る。