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家紋が入れられない男の子用羽織

公開日:2024/10/21 更新日:2024/10/21
■家紋が入れられない男の子用羽織 今週のお題は「家紋が入れられない男の子用羽織」です。ようやく涼しくなり七五三の準備をする時期になり、当店にも毎日のようにお宮参りの着物を身揚げ、肩揚げをするためにお子様を連れてご家族が来店されます。いつもは呉服屋なんて閑古ど…ゲホンゲホン、静かなものなのにこの時期だけは子供に来店いただいて賑やかになっております。子供相手に空手を教えてたり、子供が好きな私としては楽しい季節でもあります。 ただ、こんな50過ぎのおっちゃんが子供の寸法を図ろうとすると2-3歳ぐらいの子供はギャン泣きすることが多く、そうなるともう呉服屋は泣く子には勝てません。おっちゃんは少し離れながら、涙が着物に落ちないようにティッシュを持ってオロオロするばかりです。その点スタッフの大西さん(仮名)は女性ならではの柔らかい雰囲気で近寄ってうまく寸法を測ってもらえるのでありがたい存在です。 たまに大きく育って肩揚げが必要ないぐらいまで腕も長くなって「もう身揚げはいらないかな?」とおっしゃる親御さんがおられるのですが、身揚げ肩揚げというのは単に着物を子供の体に合わせるためにするのではなく、これからの子どもの健やかな成長を願う象徴のようなものですので必要はなくても、ほんの少しであっても揚げはする必要があります。身揚げ肩揚げのない子供用の着物はあり得ないのです。 少し以前にX(旧ツイッター)で皇族の方の七五三の時の写真が話題になりました。「こんな着方はおかしい」という趣旨のポストだったと思います。現代主に販売されている、子供の体格に合わせて作られた着物に見慣れた方ですと少し違和感を感じるかもしれませんが、昔の子供用の着物はもっともっと大きく、身揚げ肩揚げも大きく取って身揚げが膝のあたりまで来ることも珍しくありませんでした。 次第にそういう風習も廃れていき、子供の体格にあった着物が販売されるようになり、知らない人は昔の着方が変だとか批判するような時代になったんだなぁ、とやや感慨深い気持ちになりました。また、昔は子供の健やかな成長を氏神様に報告に行くというお祭りだったはずなのですが、いまは可愛い着物を着て写真を撮るというコスプレの日になりつつあります…と言っては言い過ぎでしょうか。
そうそう、本日のお題は「家紋が入れられない男の子用羽織」でしたね。 先日、知り合いの悉皆屋さんからメールが来たんですよ。 「七五三の男の子の羽織でこんなん持ち込まれたんだけどどう思う?これめっちゃモヤモヤするねんけど!」 送られてきた写真を見ると一見普通の七五三に着る男の子用の黒の羽織なのですが、両袖部分にもガッツリ柄が入っているんです。ありゃ、今はこんな風になっているのかな、と思って男の子用の羽織で検索してみたところ、多くのものが同じように袖にガッツリ柄が入ったものが多く販売されておりました。今週のお題からもうすでに先が読めていると思いますが、通常の家紋を入れる位置が柄と重なってしまうので、柄の部分を避けて無地の部分に家紋を入れるには3cmほど上にあげないと入れることができないのです。 この方は悉皆屋さんだったのでどのようにしたらいいかと小売店経由で仕入れ先に問い合わせたところ「レンタル屋さん向けに作られているみたいなので仕方ないですね」と言われて余計モヤモヤして私に愚痴メールを送ってこられたようです。 このメルマガを読んで下さっている着物ファンの方はご自身の家紋をちゃんと知っている方は比較的多いと思うのですが、この現代においてご自身の家紋を言える方は決して多くはありません。全くの当てずっぽうですが全年代ですと半分ぐらいの方は知っておられるようですが、若い方に限ると98%ぐらいの方はご存知ないのではないでしょうか(ただの体感で全くの当てずっぽうです)。 家紋をご存知ないということは、それだけ形骸化しているし大切にされていないということかもしれません。メーカー側としても、形骸化しているものであればわざわざ家紋の位置を意識してデザインするよりも制約を取っ払って自由にデザインしたほうがいいじゃないか、なんなら家紋なんて入れなくてもいいんじゃね?と考えるのも時代の流れとしては当然かもしれません。
先ほど書いたように七五三は氏神様に挨拶に行くのではなく、着物を着て写真を撮る日に変化してきております。子供写真館で衣裳を借りて写真を撮るのがメインで、あとはおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に会食をする程度で神社にはお参りに行かないというのも増えているようです(写真スタジオで写真を撮って別料金を払えばそのままお詣りに行くこともできるようです)。家紋どころか七五三という節目自体も形骸化してしまっていますね。 ただ、悉皆屋さんも言っておられましたが、時代の流れと需要とのバランスで形骸化しているのは仕方がないとは思うけれど、今はまだ過渡期で年配のおじいちゃん、おばあちゃん世代は七五三の羽織は家紋が入っているものと考えています。私もその悉皆屋さんと同じく古い人間なので五つ紋を入れるのが当たり前だと思っており、販売している羽織の所定の位置に家紋が入れられるかどうかなんていちいち確認しません。 販売時にてっきり家紋を入れるものだと思っていたら家紋が入るべき場所に柄が被っていて家紋を入れると変な感じになってしまう、紋帳でどんな家紋を入れるかまで打ち合わせして家紋を入れる代金もいただいているのにいざ作業しようとしたら家紋は入らない(入れようと思えば入るけど柄に被ってしまうとおかしい)というのは、何も知らないお客様からすれば「あの販売員は素人かいな」なんて思われかねず、ちょっと恥ずかしいです汗。これから男の子用の七五三の羽織を販売するときにはそのあたりも確認する必要が出てきました。 そういえば男の子のお宮参りの着物も最近は石持(注)ものは少なくなってきました。家紋を入れずにそのまま着る方が多くなってきている現代の風潮を表しているのでしょうか。石持に入れる日向紋ではなく、すり込み紋という方法で金銀の家紋を入れることができるのですが、私自身も「家紋入れます?入れることもこのまま着用することもできますよ」なんていうとかなりの割合で「もういいかな」という方が多くなってきたような印象です。そりゃそうですよね、家紋なんて今までほぼ意識したことのないんだから入れても入れなくでもどっちでもいいや、決して安くない別料金がかかるのなら入れなくてもいいかな、というのが正直なところでしょう。
注:石持とは家紋を入れるべきところが染められておらず白く丸く開いているものを指します。白い日向紋を黒い地色の上に描いても綺麗に入らないのであらかじめ白く残しておいてその部分に家紋を入れます。 ただ、この「家紋」という文化は世界の中でも日本独自のものなんですよ。ヨーロッパでは紋章を持っている家系はありますが、それは由緒ある家系に限ってのことで、一般庶民の家庭が家のマークを持っているというのは日本独自の文化のようです。今はもう形骸化しておりますが、何百年(千年以上?)も受け継がれてきたこの家紋という日本独自の文化をあっさりと無くしてしまうのも残念なような気がします。 七五三やお宮参り、その他留袖や黒紋付など呉服関係が関わることが多いものなので、できることならば時代の流れにそのまま乗っかって家紋をなくすような安易な方向ではなく、お宮参りや七五三など家紋を入れる着物を誂える時はほんの少しだけ家紋のことを考えてもらう機会にして頂き、あくまでも家紋を入れることにこだわって欲しいような気もするのですがいかがでしょうか。 この文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。