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値段の高さとファッション性の高さは比例しない

公開日:2024/10/21 更新日:2024/10/21
■値段の高さとファッション性の高さは比例しない 着物という衣類は今でこそ主流を洋服に取って代わられておりますが、実はとても機能的で、また美意識という点では他の民族衣装の追随を許さないということはこのメルマガの読者の方でしたら異論はないと思います。何度かこのメルマガで書いておりますように、日本は東の果ての島国で、他国とは海を挟んでいて国境を接している部分がないため比較的侵略から身を守ることに心を砕く必要のない平和な国だったため、他国には見られないほど衣食が発展いたしました。 技術的には様々な発展を遂げ、天平時代の絞りに始まり、先染の紬や糸の作り方など、神業ともいうべき気の遠くなるような職人さんの技術の粋を凝らしたものが現在でも多く流通しておりそういった伝統工芸的な面に魅せられて着物ファンになる方がおられます。 その一方で価格にこだわらず自分ならではの自由な着こなし、アレンジをして着物を楽しんでいるユーザーもおられます。フォーマルものは場の雰囲気を大切にするための装いのため、様式美というかなんというか、全体的な調和を崩さないという考えが第一となりますが、カジュアルものでしたら自由度は無限大ですので街で歩いていて他人を不愉快にさせるようなものでない限り常識的な装いならなんでもOKだと思います。 ファッションとしての着物の視点を持っている方、伝統工芸を身にまとって楽しみたいという方、それらは100か0かというわけではなく60:40ファッション重視、の方、30:70で伝統工芸的なものに興味のある方、それぞれですので各自にあった着物の楽しみ方を見つけていただきたいと思っているのですが、今週声を大にして言いたいのは「値段の高さ(=手の込んだ技術)とファッション性の高さは比例しない」ということです。 もちろん職人さんが大変な技術を使って作った作品は伝統工芸としての値打ちは高いものでしょう。例えば大島紬の5マルキよりも7マルキ、7マルキよりも9マルキ、9マルキよりも12マルキというように絣が細かければ細かいほど卓越した職人さんの技術が必要になりますし、それに伴って価格も上がります。しかしながらそれがファッションとしてお客様に似合っているか、そのお客様にふさわしいかというのはまた全く別というのはお分かりいただけると思います。
私の友人は「大島紬は5マルキが好き」というんですよ。なぜかと尋ねたら「9マルキなどの高級品は絣が細かすぎて目を凝らさないと絣かなんなのかわからない、でも5マルキだと絣が大きいのできちんと絣模様が見えて、その絣が可愛い」らしいです。20年ぐらい前の私がまだまだ呉服店としては駆け出しで少しずつ着物のことがわかってきた頃の話で、今から考えれば当たり前のことなんですが当時は目から鱗というか、無意識に高いものがいいに決まってると思っていたのを考え直させた一言でした。 もちろん、たまたま気に入った柄、たまたま自分に似合う柄が伝統工芸的にも手の込んだ値打ちのあるものであり気に入った柄と同時にその手の込んだ技術を持つ職人さんに想いを馳せるというのもまた着物の楽しみ方の一つですが、高い着物=自分に似合っているというのはまた全く別の話ですね。 今回のお話は決して職人さんの技術を軽視しているわけではありません。今だに機械では再現できない、機械以上の精密さの素晴らしい技術を持っておられる職人さんはたくさんおられますし、全ての機械はそういった神業的な職人さんの技術の再現を追い求めていると思っておりますので、着物ファンの方々にはファッション性の部分と職人さんの技術の高さの部分をゆらゆらを振り子のように揺れ動きながら、ファッションと伝統工芸的な部分とを両方楽しんでいただければ、と思います。 最後に私の知り合いの業界の大先輩のお話を一つ。 その方はもうだいぶん前に業界を引退されたのですが、かなり前からもう日本には伝統工芸的な反物はなくなってしまうと考えて各地の織物を1反ずつコレクションしておられました。呉服の商社で長い間織物の仕入れ担当を任されておりましたので「わしは織物以外はさっぱりわからんのや」とおっしゃる方でしたが、そうおっしゃるだけに織物の知識はすごいものがありました。 以前にもこのメルマガで書いたことがありますが、その方は結城紬の亀甲の細かさを目をつぶって触るだけでわかるとおっしゃるのですが、当時若くて着物のことなど何もわかっていなかった私は「ほんまかいな?目をつぶって亀甲の細かさがわかるわけないやん。織物に人生賭けても指先に目がつくようにはならんやろ」なんて心の中で思ったものですが、今では私はそれはハッタリではなかったと確信しています。
結城紬の亀甲数は反物の幅に何個の亀甲が織り込まれているかというもので、どれだけ細かく柄が織り込まれているかの指標となります。つまり80亀甲と160亀甲の絣では160亀甲のほうが2倍の細かさとなり、価格的にも何倍もの差となります。しかしながら実は80亀甲のものも根強い人気があり、かなりディープな着物ファンもあえて80亀甲を選ぶ方も多い…というか、ふんわりとした真綿の紬を身にまとい、その風合いを楽しむ着物ファンは亀甲の大きなものを選ぶ傾向があります。 なぜかと申しますと、160亀甲は80亀甲に比べて使用する糸が細くなり、着心地という点では80亀甲の方がふんわり暖かくて着心地がいいという方も多いのです。つまり、その業界の大先輩は目をつぶって糸の細さ=80亀甲のふんわりとした厚みを感じて亀甲数を当てたのだと思います。 こういう話を聞くと伝統工芸的な観点、ファッション的な観点、コスプレ的(笑)な観点、色々な側面から楽しめる着物って本当に奥深く、興味深いものだと思いますね。ぜひぜひ長く着物を楽しんでくださいね。 この文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。