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大島紬の証紙とパンチ穴

公開日:2025/02/07
今週のお題は「大島紬のパンチ穴」です。何度か取り上げている話題ですが、最近新しい会員様が増えてまいりましたのでもう一度取り上げさせていただきます。「もう知ってるよ!」という方もお付き合いくださいませ。 着物ファンなら一度は着てみたい大島紬。おそらく日本全国の紬の中でいちばん有名な織物ではないでしょうか。大島紬に限りませんが、その柄を作っている「絣」について少し解説します。江戸時代に開発された友禅の技法がない時代は布に直接、緻密な柄を描く方法がなかったため(滲んでしまう)、奈良時代から始まる天平の三纈(てんぴょうのさんけち)から長い間、織りあがった布に柄を描くのは夾纈(挟んで防染する)、蝋纈(蝋で防染する)、纐纈(糸で括って防染する)の3つの技法でした。 大島紬に代表される先染め織物の絣模様は纐纈の一種でして、織り上がった後に柄を描くと滲んでしまうため、織る前の糸の段階で木綿糸(注)を絹糸に括りつけて防染してその絣を組み合わせて自在に柄を表現したものです。糸の段階で絞って(括って)ますので確かに滲みませんが、初めに考えた方は一体どんな頭をしているんでしょうね…。あのような細かい絣を作って組み合わせるという膨大な手間と緻密な計算をして織り上げられた、日本が誇る世界に誇るべき織物です。たぶんここまで手間のかかる織物を作っている民族は無いんじゃないでしょうか。 注:絣を括るのは主に木綿糸を使用します。木綿は濡れると締まるという特性があるため、絣を作るときに染料で濡れるとそこからさらに締まり、より綺麗に防染できるのです。 有名な織物だけに、その有名なところに乗っかろうとする悪どい人が出てくるのは業界を問わず世の常でして、そういったものを防ぐために大島紬の産地協同組合では反物の幅や長さなどを始め、厳密な品質基準を設けてその品質基準に合格した反物にのみ協同組合の証紙を貼付してニセモノの防止に努めています。大島紬は比較的見分けやすい部類の紬ですが、やはり証紙は大切なものでして当店のリサイクル品では証紙がついているものはついていないものよりも少し評価が高くなります。このメルマガを読んでいる方でしたらもう書かなくてもご存知だと思いますが、証紙は大切なものですのでお仕立てするとき、またリサイクル品を購入したときについていくる証紙は必ず大切に保管しておいてくださいね。
とは言うものの、証紙なんて貼り替えられたら誰にもわからないので、必ず証紙と反物が一体となっていることを証明するためにパンチ穴が開けられています。証紙が貼り付けられた状態で軽く穴を開けて(と言っても向こうが覗けるような穴ではなく、少し凹んでいる程度)、証紙と反物のパンチ穴がピッタリと合っていれば間違いなくその着物と証紙は一体になったもの、パンチ穴がずれていて合わない場合は貼り替えられた可能性がある、と判断できます。 大島紬の証紙は奄美大島の地球印、鹿児島の旗印のものどちらも厳密に管理されていて我々呉服屋など業界人であったとしても証紙だけを手に入れることはできませんので、正規品の大島紬についていた証紙をニセモノの粗悪品にわざわざ貼り替えるということはまずありませんが(貼り替えてしまうと正規品の大島紬が逆にラベルのないB級品扱いになってしまうので貼り替える意味がない)きちんと管理されているなら消費者にとってもラベルのついているものは安心してご購入いただけますね。 また、最近は奄美大島の大島紬(地球印)に限り本場奄美大島紬商品履歴システムというものがありまして、履歴書シールが貼られた反物に限りますが反物に貼付されているシリアル番号をインターネットで打ち込みますと柄の画像、生産者の写真などを見ることが出来、組合をあげてまがい物をなくそう、消費者の方々に安心して選んでもらえるようにしようと努力しておられるのがよくわかります(注)。 注:この本場奄美大島紬商品履歴システム、Googleで「本場奄美大島紬商品履歴システム」で検索したら出てくるんですが、本場奄美大島紬協同組合のサイトのどこを見てもリンクが貼られてないんですよ。せっかくこんな優れたシステムがあるのにもったいないのでもっとアピールしたほうがいいと思うんですが…誰も気づいてないんですかね?
…とまあここまではよく本やサイトなどに載っていることですので着物ファンならばご存じの方も多いと思いますが、実はこのパンチ穴、きちんとした大島紬の正規品にも関わらずずれているものが多数流通しています。ずれているというよりも貼り替えられたものです…といっても消費者を騙しているとか粗悪品に証紙を貼ったものではないのではじめにその点だけはご理解下さい。 結論から言いますと貼り替えられているのは旗印の機械織りの白生地の大島紬です。 ここでちょっと話が飛びますが、かなり以前に大島の職人さんに教えていただいたのですが、大島紬は平織りの先染織物というのが大前提であり、綾織や捩り織などの複雑な織りは存在しません。あくまでも一番単純なタテヨコの平織りのみで絣糸を組み合わせて、あの美しく、かつ複雑な柄を表現しています。逆に言えばそういった要件をクリアして検査場に持ち込めば大島紬の証紙は貼ってもらえるのです。そこで「じゃあ、ただのちりめん生地を先染にして大島の試験場に持ち込んだら大島紬と認定されます?」と聞いたら「うーん、要件を満たしてさえいれば認定される可能性はなくはない」とのことでした(注)。事実、産地では今までの大島紬の風合いとは全く違う「リング大島」などの新しい試みをしておりますので、販売する側も、そして消費者もあのツルっとした風合いの生地が大島だと思っているといつの間にか進化してもっと素晴らしい織物に進化しているかもしれません。 注:あくまでも大島紬の職人さんであって検査員の方ではないので真偽は不明です。 ここで「あれ?おかしいな」と思いませんか?大島の要件は「平織りの先染織物」なのに大島紬の旗印の証紙が貼られた白生地が存在するし、大島紬の訪問着など後染のものも存在しますよね。これは簡単なカラクリでして、確かに先染の糸で織られているのですが、あとからまた染めることを前提に作られているので、後染の色の邪魔にならない程度のごく薄い色で染めることによって、「平織りの先染め織物」という要件を満たし、大島紬の検査場の試験に合格して無事証紙が貼付されて「大島紬の白生地」として出荷されるのです。
そして大島紬の白生地は主に京都や十日町など着物の産地で後染の加工が施されて「後染めの大島紬」が出来上がるのですが、染めるときに証紙を貼ったままにすると染料や水がかかったりでボロボロになってしまいますので染める前に一旦証紙は反物から剥がされます。染め上がった後にもう一度貼り付けられますが、いちいち一旦剥がした証紙と反物の組み合わせを探して…なんて手間をかけられませんので、白生地から剥がしては染め上がった反物に貼付しておきます。もちろんすべて品質は同じものですので証紙が入れ替わろうが何であろうが大した問題ではない、ということでしょう。先染であっても後染であってもあの大島紬独特の素晴らしい着心地と風合いは何ら変わりませんし。 正直微妙なところではありますが、一方で決して高くない染め単価で頑張っている職人さんのことを思うといちいちパンチ穴を合わせるために証紙と反物の組み合わせをきちんとしろ、なんて手間なことはなかなか言えないなぁ、とも思うのです。すべて同じメーカーから出荷されたものであり、粗悪品に貼り替えて消費者を騙しているわけでもありませんので、コストと理想のバランスを考えた上でこうなっているんでしょう。 なお、地球印の奄美大島産の大島紬は元々手織りしかなく白生地にするような機械織りは勉強不足の私の知ってる限りでは存在しないと思ってますので、こういった白生地はほぼ100%鹿児島県産の旗印のオレンジラベルのものです。もし後染の大島紬の証紙をたまたま見て、一般的に本やサイトなどで書かれているようにパンチ穴が通っていなかったとしてもそれは別にニセモノでもなんでも無く、ただの制作工程上の理由からこうなっていると思って頂ければ安心して購入できると思います。 この文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。