楽天市場 | リサイクル着物呉服のきくや - 呉服店が振袖販売を頑張る理由

今週のお題は「呉服店が振袖販売を頑張る理由」です。もうすぐ成人式ですね。当店の位置する大阪市大正区はなぜか成人の日の月曜日ではなくその前日の日曜日に成人の集いが行われるため私の貴重な休みの日曜日が潰れてしまい少々残念なのですが、20歳を迎えるお嬢様方が振袖を着て出かけるのを見ると初々しくてほのぼのとした気分になります。このメルマガをお読みいただいている方の中で、お嬢様が成人式を迎えるという方もおられるかもしれませんが、呉服屋のおっちゃんからアドバイスを一つ。成人式前日はとにかく早く寝て体を休めることを心がけてください。体力のある年齢ではありますが、着たことがない方にとって慣れない着物は想像以上に疲れます。今まで何人か、せっかく髪をセットして着付けもしたのに気分が悪くなって結局成人式に出られなかった、ということもありました。さて、振袖のレンタル＆販売が一番活気づくのはいつかご存知でしょうか？実は1月なんですよ。来年成人式ということで「そろそろ用意しなくちゃ…」と思うのと、早めに行かないといいのがなくなってしまうという思いやら色々なんでしょうね。その柄は1点しかないので気に入っても「もうレンタル決まってしまいました」と言われたらどうしようもないのでそういった意味でも早くから用意することをお勧めいたします。今週のメルマガは私が新品呉服店に勤務していた時代に振袖販売は頑張りましたので今回はちょっとその裏側をお話ししようと思っております。まず初めに申し上げるのは振袖販売は儲からない、ってこと。そんなことあるかいな、あんなに高いのに儲からないわけないやん！と思われると思うのですが、経費がめちゃくちゃかかってほんとに儲からないんですよ。数年前に成人式直前に振袖販売店が破綻したのは記憶に新しいですが、この年末も振袖販売店が破綻したということでニュースになってましたよね。そこそこの規模の店だったように思うのですがそれでも破綻してしまうのは経費がかかりすぎるからなんですね。

私が勤務していた店は振袖販売のグループに所属しておりました。そのグループでは毎月勉強会を行っており、振袖販売のことだけでなく着物のこと全般について勉強させてもらった非常に有意義な会でした。そのグループは名簿業者（注）から成人式を迎えるお嬢様の名簿を購入しタレントさんを起用したパンフレットを作って配布、毎週のようにDMを送るという手法でした。振袖はいつお嬢様とお母様が思い立って選びに行こうという気持ちになるかわからないのでその思い立った時にDMが目につくように毎週のようにDMを送っていたのです。注：名簿業者から名簿を買うのは必要な手続きをしていれば違法ではありませんし、正規の名簿業者が法律を守って営業しています。当時、そのグループの共通認識では1年間で40枚販売すればかなり優秀な営業マンと言われました。1年で40枚ということは1ヶ月に3枚強。レンタルや購入の粗利（売上額-仕入額の純粋な利幅）が平均20万円としても合計60万円程度の利益で「優秀な営業マン」の称号（笑）が手に入るんです。営業マン一人雇うのに給料30万円に社会保険料やらなんやらで50万程度は必要なのに60万程度の粗利をあげると優秀と言われるのは少々違和感があります。先ほど書いたように私が勤務していた店はDMやパンフレットを毎週のように送っておりましたので、その印刷代、送料などもかなり費用がかかっておりました。当時はハガキ1枚50円でしたがDM印刷は50円ほど（販売グループで共通のものを作っているので比較的安い）。当時の社長に郵送料や印刷代を見せてもらったら目ん玉ひん剥くぐらいの請求でプレッシャーかけられてるんだな、と思ったのを覚えています笑。また、着付は当然として髪のセットやメイク、写真までついているのはもう当たり前。それらを1カ所で済ませられるように成人式当日はホテルの宴会場を借り切って対応します。これも請求書を見せられて目ん玉…ってもういいですよね笑。

また、振袖は着物という商材の中でも少々特殊な商材でして、何度かこのメルマガで書いておりますように呉服屋って基本お得意様相手に商売をしておりまして、全く知らないお客様がふらっと来店するなんてことは私の経験上非常に少ないです。なんなら全く知らないお客様が来られたら意図を図りかねて警戒したぐらいです。昔展示会で全く知らないお客様が来られて高額商品を盗まれたという経験もあるので失礼ではありますが滅多にないことなので余計に警戒してしまうんですよ。お得意様相手に商売をしていると、品揃えが非常に楽なんですよ。基本、その店の品揃えを好んでくださってますし、前もって「訪問着が欲しいから揃えといて。2-3日したら店覗くわ」なんて言っていただけるのでその間に取引先に手配して借りることができるので多くの商品を在庫に持つ必要がありませんし、次の展示会を案内してもいい。すでに顧客になっていただいているため他の店に行くこともないので、着用予定に間に合わせることができるなら商品の手配に時間をかけることができます。でも振袖は違います。全く知らないお客様がDMを見て急に来店されますので、いつ来られてもいろんな振袖を見ていただけるようにしておかないと、せっかく来店されても他の店に行ってしまいますので毎日いつでも商品を見ていただけるように常に臨戦態勢を作っておかなくてはなりません。他の業種なら当たり前の話ではありますが、着物という非常に単価が高いものを100枚、200枚と揃えるのは小さな店にとってかなり負担でした。仕入れ値の平均が8万円としても1500万円ぐらいかかってしまうし、帯や小物なども合わせると2000万円、3000万円分の在庫を常に揃えておくのはなかなか大変でした。では何故そこまでして振袖販売にこだわるのでしょうか。それは振袖が新規客獲得の最重要商材だからです。振袖を購入していただけるということは他におつきあいのある呉服店がない可能性が高いです。私が新品呉服店で勤務していた時代は今ほどレンタルがなく、7割ぐらいは購入していただけました。これだけで終わってしまうとあまり旨味のない商材なのですが、振袖を販売して顧客としてお付き合いが始まるとお嫁入り道具を揃えるというミッションが始まるのです。

女の子3人いたら家が傾く、なんて言われた時代です。何度かこのメルマガに書いているようにお嫁入りする時にはタンスの中にいっぱい着物を入れて新居に運び込むのが当たり前でした。ですので振袖を購入していただいたお客様は次に黒紋付（喪服）のセット、七五三や入卒業式に必要な訪問着や色無地、結婚相手に兄弟がいるなら黒留袖、宝石を扱っている店ならパールのネックレス、お母様用の黒留袖、さらには結婚相手へ結納返しの大島紬アンサンブルまで期待できるのです。なので1ヶ月に振袖3枚程度販売する営業マンでも、そういった顧客をたくさんもっているため毎月のように振袖以外の訪問着だの黒紋付だのの注文が入るのです。ただ、最近はお嫁入りに着物を持っていくという習慣はほぼなくなってしまいましたし、結納もしなくなり、お母様の留袖はレンタルが主流となり、呉服店にとって振袖は手間も経費も段違いにかかるため魅力のある商材ではなくなってしまいました。私の知り合いの店でも振袖販売からはほぼ撤退しているようです。振袖の販売から他の商品につながることがなくなってしまったので既存の呉服店は振袖から撤退、そして新興勢力は名簿を買って商品を揃えれば手っ取り早く始められる振袖専門店に特化していき、あくまでも私の感覚ではありますが昔からの呉服店と振袖専門店と二極化しているように思います。最近は振袖専門店は写真館も併設することも多くなりさらに固定費がかかるようになって、私から見ればビジネス用語でいう「レッドオーシャン（注）」で利益を削って必死に頑張っているように見えます。サービス合戦の結果、かなり安く購入できるようになりましたが破綻してしまうのは困りますので無理せず適切な利益でお客様にしっかりとサービスを提供していただきたいな、と思います。注：参入障壁が低くライバルが多いため、安売り＆サービス合戦になる業種のことこの文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。