コミュニティや地方によってドレスコードも様々
本日のお題は「コミュニティや地方によってドレスコードも様々」です。着物のドレスコードは難しい、なんて言われますけれど私からすれば洋服の方がずーっと難しいです。着物なんて一番偉い（笑）のは留袖、二番目に偉いのは訪問着、三番目に偉いのは付下や色無地、普段着は小紋や紬、なんて覚えておけばだいたい事足りますが（ざっくり）、洋服は正式なドレスコードだと昼と夕方以降で着るものが違ったりとてもとてもややこしいです。
ちなみに結婚式の時に着るモーニングって、欧州の貴族が朝に乗馬の練習をした後そのままの昼間の正装だから「モーニング」というのであって、夕方以降に着るのは本来マナー違反だとか。本場欧州で今でも時間帯によって装いが違っているのか、それとも日本のように形骸化しているのかは、海外のそういう場には全く縁がないのでわかりませんが日本に入ってきた海外の文化は本来の意味合いが忘れられた、かなり簡略されたものであることが多いです。例えば葬儀の時には死者が肉体への執着を捨てられるように肌を直接見せないように顔の前にベールをつけるなど…（洋服のドレスコードについてはちょっとあやふやなので話半分に読んでください汗）。
私たちは現在洋服中心の生活をしているため、ジャージにネクタイがおかしいとか、パンツスーツの上に重ねてスカートを履くなどはおかしいと自然に身についていますが、着物はすっかり日常生活から乖離してしまったため、例えば紬にキンキラの古典柄の袋帯がおかしいとか、着物に慣れ親しんできたら自然にわかることも忘れ去られてしまっているのが現状です。文化は流動的で自然にゆっくりと変化していくものですからこれはもう仕方がないことかもしれないですね。
本日、お客様が来店されまして「紬の着物に合わせる黒地の帯が欲しい」とおっしゃったので、パソコン画面を見ながら「どんなのがいいですか？」なんて色々お聞きしておりました（注）。
注：当店はリサイクル着物を9000点ほど在庫に持っており、とても店の中には置けませんので近くに大きな倉庫を借りております。ですのでまずはパソコンでお客様がご覧になりたい商品をいくつか、あらかじめパソコンの画面を見ながら選んで倉庫に取りにいくという形になっています。正直時間がかかるのはわかっているのですが、100畳以上の広さの倉庫に頭の上までの高さのあるスチール棚が数十台並んでいてそこに着物が山盛り入っている状態ですのでやっぱりパソコンから選んでもらう方が現実的なんですよね…。
紬ということでしたが落ち着いた赤みかかった紫のぼかしだったので後染めの紬だったのかもしれません。スマホで着物を床に置いた状態で撮った写真を見せていただいたのですが、細かい生地の風合いまではわかりませんでした。
「ぼかしだけの色合いだったらどんな柄でも合いやすそうですね」なんていいながら、紬の着物なのでカジュアル用の名古屋帯のところを見ておりました。そういやどんな時に着ようと思ってるのか聞いてなかったな、と思ってお客様に「どんな時に着ようと思ってます？」ときくと「ねんさいのときに…」とおっしゃいました。ん？ねんさいって…ドレスコードは紬でいいんかいな？
ねんさいって…仏教でいう法事で神道の5年祭、10年祭ってやつですか？と聞くとビンゴ。亡くなった方を供養するのは仏教は3回忌、7回忌、などと言いますが神道では5年祭、10年祭といいます（これもあまり知識がないので間違ってたらすいません）。
「すいません、ちょっとわたし神道は全くわからないんですがその『ねんさい』ってカジュアル用の着物でいいんでしょうか？」と聞くとお客様側もあまり詳しくない様子。うむむ、このままお客様が欲しいというものをそのまま販売すると無責任な商品を販売してしまうことになる。
仏教でいう法事は、着物では寒色系の色無地や江戸小紋に黒共帯というのが定番になっています。黒共帯というのはいわゆる喪服用の黒い帯で、法事にも使えるのが一般的な認識ですが、よりこだわる方には法事専用の帯としてグレー地に蓮の花柄や「夢」などの文字を織り込んだものもあります。色無地や江戸小紋はブルー系の寒色系やグレー、藤色、紫などがお勧めです。赤っぽい色のものは派手になるので避けます。私の今までの経験から仏教の法事の着物のドレスコードはわかりますが、神道での問い合わせは初めてでした。
えーっと、今見せていただいた着物は色無地じゃなくて紬なんですよね？それに黒地の帯が欲しいということで、色合いは多分考えておられる感じで綺麗に合うと思う。柄も着物はほぼ無地なので色合いさえ合えば柄はどんな感じでも合いやすいと思います。ただしやっぱり紬にカジュアル用の名古屋帯はどうなんだろう、と思ってお客様に聞いてみる。
「この写真の着物は紬の着物ということでしたけど、一般的に紬の着物は普段着用とされていていわばTシャツにジーンズといった装いです。神道の年祭というのがどれだけ改まった場なのかわかりませんが、それほどカジュアルなものではないのではないでしょうか」と聞いてみると、一緒に出席する方に「紬の無地着物か大島紬のどちらがいい？」と聞いてみたら無地の紬のほうがいいと言われたので買いに来たとのこと。
うーむ、その方はその会場の雰囲気を理解している方なのかそうじゃないのかどちらでしょう？と聞くとその辺りも少しあやふやということで「それならその場に出席する一番発言権のある方、一番声の大きな方に聞いてきたほうがいいですよ、とアドバイスさせていただきました。年祭ということでおそらく仏教の法事と同じような格式の場だと推測するとやはりもう一度しっかりと確認していただいた方がいいのでは、と思うんですよ。
上記のような経緯でもう一度確認していただくことにして今回は販売はいたしませんでしたが（注）、今回のタイトルに書いておりますように着物は非常に歴史が長く、また情報伝達がほぼないような時代から存在しておりますので、地方やそのコミュニティによって全く風習が違うということが多々あります。仏教でいう法事の装いが神道でも正しい、なんてことは全く根拠がないのでお客様がご希望するものを販売すればいいのではないか、なんてことも思いましたがそれほどお急ぎではなく、今日購入しなくても十分間に合うということで再度確認することにして今日のところはそのまま帰られました。
注：後日またご来店いただきまして、かなりカジュアルな感じでもOKらしく今回は腕によりをかけて選ばせていただきました。
現代はインターネットをはじめとして情報が伝わるスピードが100年前の10万倍…どころじゃないな、1億倍、10億倍といっても過言ではないぐらい情報が早く伝わる時代です。沖縄で午前中に何か事件が起こったら午後には日本全国に伝わっているこの時代、日本全国同じ風習、同じドレスコードだと思ってしまいがちですが着物に関してはまだまだ地方ごとの考え方の差は大きいし、今回のように宗教によって違う場合もありますので安易に「私が知っていることが絶対正しい」と言えないので注意が必要です。
ドレスコードをインターネットで相談すると、回答している方々はあくまでも自分が知っているドレスコードで答えますが、それはあくまでも回答している方の周りで通用するドレスコードであって質問した方に当てはまるものではないかもしれません。ネットには様々なサイトがあり私が読んでも「え？そうなの？」ということもありますが、地方差やコミュニティの違いなどで私が教えられてきたドレスコードとは全く違っていても不思議ではありません。
縦に長いこの日本、地方によって気温も全く違います。衣替えのシーズンですら東西南北で全く同じで一斉に変わるなんてそもそも無理があるんですよ。なんなら琉球民族やアイヌ民族など人種、民族も違うので長い時間かけて少しずつ成立したドレスコードも日本全国あちこちで違うのは当たり前ですし、だからこそ面白いんじゃないでしょうか。
着物のドレスコードなんて日本全国で「これが正解」なんてものはありません。初心者だとなおさら人目を気にして何が正解なのかわからなくなってきますし、ネットで検索して調べてみたらサイトによっていうことが違ったり余計に分からなくなってドツボにはまることもあると思います
。言葉ではアナウンサーの使う「標準語」というものがありますので明確に「これが正解」というものがありますが着物には「標準着物」なんてございませんので正解不正解の概念自体がありません。
私もよくドレスコードを聞かれることがあるのですが、一番確実なのは先ほども書いたようにそのコミュニティの一番発言権のある人、一番声の大きい人、一番その場を取り仕切ってる人に聞くのが一番です。そうするとたとえ間違って指摘されたとしても「あら、あの人に聞いたんですけどねぇ…」なんて逃げることもできますし笑。
ところで当店は毎日X（旧Twitter）やThreads、Facebookで毎日着物豆知識を配信しております。数行の簡単なちょっとした知識を配信しているのですが、先日「足袋は正式（フォーマル）は5枚こはぜです」なんて書いたところ「そんなことない！」というコメントがつきました。私は今週のお題のように着物関係なんて地方差やコミュニティによって様々で私が今まで業界の先輩から教えていただいてきたことが日本全国どこででも正しい、なんてことは全く思っていないので「ほうほう、そんなことない！と思う地方もあるんだな」なんて思ったのですが、他にもいくつかいただいたコメントで少し興味深いことがわかってのでアンケートを取ることにしました。
足袋に4枚、5枚でフォーマルかカジュアルかの区別はあるのか、足首が見えてるのが粋なのか、それとも足首は全く見えてない方がいいのか、という質問でたくさんの回答を頂戴いたしましたので来週はその回答を整理してお話ししてみたいと思います。楽しみにしていてくださいね…って上手くまとめられるやろか…。
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