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反物の幅と裄の関係

公開日:2024/12/13 更新日:2024/12/13
今週のお題は「反物の幅と裄の関係」です。一般に着物の反物は1尺幅=約38cmというのはこのメルマガを読んでおられるようなマニアな方はご存知だと思います。業界ではこの通常の幅の反物を「尺幅(しゃくはば)」と呼びますが、別にきっちり38cmでなくても37cmでも36cmでも「尺幅」と呼ぶことが多いです。これは1尺5分(約40cm)あるような「尺五(しゃくご)」と区別しているだけで、かならず1尺の幅があるという呼び方ではなく結構適当だったりします。簡単に言えば「普通の幅の反物」を尺幅と呼ぶと思ってもいいと思います。このあたりの表現は私の周りだけかもしれませんけれど…。 さて、その尺幅の反物ですが、最近は幅が足りなく感じることが多くなってきております。現代女性の体格が良くなってきたこと、モデル体型で手足がすらっと長くなったこと、着付教室の普及や着物を着ること自体フォーマルという認識があり、衿合わせを深くきっちりと着る方が多くなっていること(注)、洋服の影響で袖口が手首のぐりぐり全てにかかるまでの長さを好まれることなど様々な要因で裄がどんどん長くなっています。 注:昔の写真なんて見たら襟元なんてガバッと開いていてゆるゆるで着ているので、その分裄が短くても十分な長さが確保できているのがよくわかります。 もう少し短くてもいいんじゃないか、と思うのですが洋服のネクタイやスカートの長さが変わるのと同じように、多少デザインが変わるのも当たり前ですのでそれはそれで受け入れるのですが、残念ながら反物の幅は昔からの38cm(後述)ですので色々と支障が出てきているのも確かです。反物を長く織るのは比較的簡単だと思うのですが、横幅を広げるのは今までの織機では対応できず設備投資が必要なので色々大変なようです。メーカー側としてもどんどん縮小していく呉服市場でそんなところに経費はかけられないし、それ以前にもう織機自体すでに作られていないという話も聞きますので簡単に幅を広げたらいいやん、という話でもないのです。
先日も羽織のお仕立てのご注文をいただいたのですが、お客様から預かった反物が約37cmでした。一方、長着(着物)の裄は71cmですので羽織はそれよりも少し長くしないと袖口から出てきてしまいます。つまり71.5cm-72cm程度の裄が必要なのですが、残念ながら37cmの幅の反物は通常の方法では72cmの裄は出ません。ということでお客様にお返しすることになってしまいました。綺麗な反物だったので何か別のものにお仕立てできたらいいのですが…。 今回せっかくお客様が運賃を払って送ってくださったのに対応できず申し訳なかったので、今回のメルマガはお客様自身で事前に手持ちの反物でご自身の裄が出るかどうかの計算式を書きますのでお仕立て前にご確認いただければ幸いです。全く難しくないです。むしろ簡単。小学生の算数レベルなので算数が嫌いな方も少しだけ付き合ってください笑。 その計算式は (反物幅-2cm)×2=最大の裄 となります。反物幅から2cm差し引くのは縫い代部分。袷か単衣かによっても多少の違いはありますがだいたい2cm程度と思っていただければ、と思います。和裁士さんによってはもう少し必要な場合もあるかもしれません。 実際の数字で計算していますと、38cmの反物の場合 (38cm-2cm)×2=72cm となります。この場合、最大の裄にするには肩幅36cm+袖幅36cmの72cmであって、肩幅35cm、袖幅37cmといったことはできませんのでご注意ください。また、先ほどちょっと書いたように長着の袖が袖口から出てこないように、羽織やコートは0.5cm-1cm程度裄を長めにしますので、自分の小紋は72cmの裄だから大丈夫、と思って38cmの反物で羽織を仕立てようとすると「羽織に仕立てるには少し足りません」と言われることになります。 また、先ほどから反物幅は尺幅で約38cmなんて書いておりますが、実際には38cmたっぷりある反物は多くはなく、一番多いのは36cm-37cm程度です。かなり古いウールの反物になりますと35cmのものもあります。35cmの反物ですと(35cm-2)×2=66cm程度が最大の裄になりますので現代女性ですとちょっと背の高い方…いや、標準的な背丈の方でも短く感じる方はおられるかもしれません。
冒頭に書いたように様々な要素が絡み合って、現代では必要とされる裄はどんどん長くなってしまっているのですが、私個人の感覚からすると現代の裄は長すぎると思うんですよ。もう少し短めにした方が動きやすいし着姿も綺麗なんじゃないか、と思うのです。そうはいっても世の中の流行が長めである以上こんなしがない呉服屋のおっちゃんが主張したところで何も変わらないんですが笑。 ただ、そんな呉服屋のおっちゃんからもう一つ言わせていただくと、背の高い方はなるべく短めにしておいたほうがいいと思います。別に自分が違和感を感じるほど短くする必要はないですよ。68cmにしようか、いやもう少し長い69cmぐらいの方がいいのか、と迷った時には68cmにしなはれ、という程度でツンツルテンに見えても66cmにしなさい、なんてことは言いません笑。迷ってるなら短めにした方がいいですよ、という程度のアドバイスです。 なぜかと申しますと、68cmを超えてしまうとたとえフルオーダーであったとしても急に選択の幅が狭まってしまうんですよ。先ほど書いたように38cmある反物はそう多くはなく、比較的新しい反物の多くは37cm前後、ちょっと古めのものだったら35cmなんてことも多々あります。69cmや70cmの裄に決めてしまった場合、せっかく気に入った反物だったのに裄が出ずに泣く泣く諦める、ということも将来起こりうる可能性がありますし、実際に何度も目の当たりにしてきました。ですのでもし迷ったのであれば短い方を選択していただければ将来諦めることも少なくなるのでは、と思うのです。 もちろんリサイクル品などもうまく組み合わせて着物を楽しんでおられる方の場合、お持ちの着物の裄の長さを全て合わせるということは不可能ですので、着るたびに袖口から長襦袢が出ないように肩の部分をつまむなどの工夫はしておられるとは思いますが、できればそういった対応策もなしで着られる方がいいですからね。
最後に、どうしても気に入った反物だけど裄が出ない、どうしようという場合の裏技を紹介いたします。 一般的に長着の前幅は22cm-25cm程度に仕立てられます。一方で反物幅は37cm-38cm程度ありますので縫い代として比較的多くの布が中に入っています。そのためこの縫い代部分を細長く裁断して袖部分に継ぐことによって数cm程度長くすることが可能です。私の裄は2尺(約76cm)以上ありますので通常の仕立て方ですと幅40cm以上の反物が必要ですが私の大好きな木綿の着物ですとこの幅の反物を見つけるのは非常に難しいし、あったとしても高い!しかしこの方法でしたら普通の反物でも対応できる可能性があります。 ただし、この方法は柄を選びますよ。縦縞ならパッと見た程度ではまずわからない程度まで綺麗に仕上がります。また小さな柄のものもほぼわからない程度に綺麗に仕上がりますが、大きな柄になると継いでいる部分が目立つかもしれません。もちろん訪問着などの絵羽ものでは対応できません。あくまでも小紋や紬のみですのでご注意ください。 着物のいろいろな規格(?)は昔に出来上がったものですので現代人の着方では少し工夫をしなければならないことは多いかもしれませんが、それも含めて着物の楽しみ方と思っていただければ幸いです。わからないことがありましたらメールでもXのDMでも当店の本店サイトの商品ページに貼っているLINEのバナーからでも構いませんのでなんでもお問い合わせくださいませ。 この文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。