お知らせを表示するにはログインが必要です。このエリアでは、楽天市場でのお買い物をもっと楽しんで頂くために、あなたの利用状況に合わせて便利でお得な情報をタイムリーにお知らせします!
ようこそ 楽天市場へ

寸法直しは大変

公開日:2024/12/30 更新日:2024/12/30
今週のお題は「身丈を直すのは大変」です。当店はリアル店舗では新品の反物もごくわずかに販売しておりますが、主に扱っているのはリサイクル品ですので仕立て上がったものがほとんどです。また、リサイクル品は昔に作られたことも多くサイズが小さめのことが多いので寸法直しをご依頼いただくことも多いのですが、今回は寸法直しについて書きたいと思っております。 着物って大昔の、モノがない時代に形作られて普及したものなので、基本的には色々寸法直しができるように作られている、というのは聞いたことがある方は多いと思います。一枚の着物が親から子へ、子から孫へと受け継がれていった、という話を耳にしたことがある方も多いでしょう。確かにその通りで着物は初めは長着(ごく普通の着物)としてお仕立てされて、親から子へ受け継がれて、裾が擦り切れたら羽織やコート、そしてもっと古くなったら座布団などに変えて最後まで布を使い切るといったイメージがあると思います。 もちろん現代でも同じように布を大切にして最後の切れっ端まで使いつくすことは可能です。可能ではあるのですが…というのが今週のテーマです。 誤解しておられる方は多いと思いますが、和裁士さんは基本お直しは嫌がります。新品の反物を仕立てるのが一番やりやすく、当店のようなリサイクル品のお直しは一番嫌がられます(汗)。一旦誰かわからないような人がどんな風に仕立てたかわからない着物は開けてびっくり、変な仕立て方をしていることも多々あるので嫌がられるのです。なので通常の仕立てよりもお直しの方が割高になっているところは多いと思います。新品の反物を仕立てるのは教科書通りの仕立て方で対応できても、お直しはその着物ごとに個別に柔軟な対応をしなくてはならないことも多々あり、和裁士さんの腕の見せ所…というと聞こえはいいですけどそんなお直しで腕見せなくてもいいわい!という声が聞こえてきそうです汗。
面倒くさい仕事が故に、お直し料金は一から仕立てるよりも若干割高になるのはわかっていただけると思います。工業製品でも製品として販売されているものは安いけれど、一旦壊れてしまうと非常に割高になることが多いのと同じように、着物も様々なイレギュラーなお直しに対応するのはかなり技術を要するし、兎にも角にも面倒くさい仕事であり、それをわかっているからこそ余分に費用も払ってあげなくちゃ、と思うんですよ。 当店は楽天やYahooショッピング、Amazon、本店公式サイト、メルカリやラクマなど6店舗出しておりますので、おかげさまでご覧いただいている方も多くそれなりに忙しい日々を送らせていただいております。そしてそれだけ多くの商品を出品してご覧いただいていると毎日のように「裄はどのくらいまで出ますか?」という質問をいただきます。最近は縫い代の量を商品ページに書いているのでお問い合わせはかなり少なくなりましたが、それでも昔に商品登録した商品については縫い代の量は記載されていないページについては質問がいただくことがあります。 こんなことならもっと昔からちゃんと書いておけば良かったのですが、もし間違ったことを案内してしまったら、と思って当初は意図的に書かなかったんですよ。上から触っただけではかなりわかりにくい生地もあるし、あくまでも上から触っただけの感触ですので縫い代部分に何か致命的な難がある場合もございますのであまり気が乗らなかったのですが、お客様からの度重なる要望に頑張ってみることにしました。 今の所はまだ誤った案内をしてしまったことはなさそうで、「4cm出るって書いてたのになかったじゃないか」というようなことはないのですが、商品説明に誤ったことを書いてしまうことがないように冷や汗かきながら商品ページ作成時に指の感覚を研ぎ澄ませながら確認しています。縫い代だけじゃなくて、表地がヤケによって褪色していて裄出しをすると今まで隠れていた部分と出ていた部分に色の差が出ることもありますので、そういったあらゆる可能性を考えると見えない部分を手探りでお客様に案内するのは少しだけ及び腰になってしまうのです。
裄に関しては色々なハードル(?)がありつつもなんとか頑張れるので、それでもお客様のためなら頑張りますよ!なんて言えるのですが身丈に関してはもうお手上げ。「身丈はどのくらいでますか?」という質問もよくいただくのですが、はっきりいって身丈は解いてみないとわからない、というのが答えです。 身丈を伸ばすというのは着物を構成しているあらゆるパーツが関わってくるといっても過言ではありません。また、胸のあたりにある内揚げ部分から生地を出しますので縦の縫い目(=身頃部分)を全て解くという大手術が必要になります。衿も外すことも必要になってきますし、ご希望の身丈にする胴裏も足りなくて胴裏を新しくする必要があるかもしれません。 これだけの大手術になると今まで縫っていた跡がついていると縫いにくくて和裁士さんは嫌がるので筋消しをしてほしいといわれますし、そうするともう一から全てバラして反物の状態にして洗い張りをしてご希望のサイズに縫い直すのを勧めたほうがいいような大手術になってしまいます。ここまでいくと3万ぐらいかかってしまいそうな大手術になってしまうというのはわかっていただけると思います。 たまに「お端折り部分に生地を足して身丈をのばしてほしい」というご要望もいただくのですが、これまた難しい(汗)。「裾から○cmのところから○cm足してほしい」とお客様から要望があれば対応することは可能なのですが、こちらの方で着用時に表に出ないように見繕って生地を足してほしい、と言われるとかなり難易度が高くなってしまいます。 身幅直しは身丈直しに比べると「解いてみないとわからない」という要素は多くありません。というのも着物に使う反物は基本的に1尺幅(約38cm)ですので解かなくても身幅の縫い代にどのくらい入っているか、大体の予想がつきます。もっとも1尺幅と言いながらほんの少し狭い9寸5分程度のものは多々あるのですが、それでも身幅にはそこまで生地を必要としないので可能か不可能かと聞かれると可能な場合は多いです。
ただし、それはあくまでも可能かどうかというだけの話で費用の面は別問題です。身幅を広げるというのはやはり身丈と同じく縦の縫い目の線を全て解かなければならないので、先ほどの身丈と同じようにほぼ全て解くのに近いようなコストがかかってしまいます。当店の考えとしては、よほど気に入った品物であればかなりの費用をかけてお直しもいいのですが、5000円や10000円程度の価格帯のリサイクル着物で3万以上もかけて仕立て替えるというのはあまりコストパフォーマンスは良くない、と思うのが正直なところです。それなら合計金額の4万程度を予算にしてご自身の体型にあったものを探すほうが現実的なような気がします。リサイクルにこだわるのでなければ、最近はネットで安価な反物もありますし、そこまで予算を見込んでいるのであれば新品反物を一からご自身のサイズに合わせてフルオーダーで誂えるというのも候補に入ってきますね。 着物は仕立て替えができるから環境に優しい、コスパがいい、なんて思われがちなのですがそれはもう遠い昔の話のように思います。昔は男性は外で働き、女性は専業主婦が多かったので女性で和裁をする方は多かったし、手に職をつけるといった意味でも和裁を選ぶ方が多かったのですが、生活様式が変わり、女性も外で働くようになり裁縫をする方の方が珍しくなりました。昔と違って自分で裁縫するよりも買ってきた方が安くて綺麗なものが手に入る時代になったこともあるでしょう。 着物の構造を見ると、確かに仕立て替えることを前提に工夫された構造になっているのは確かですが、現代のようにお金を払って業者に出すとコスパ的にどうなの?と思うことも多くなってしまいましたね。冒頭に書いたように、日本人は着物としてきた後は最後は座布団にして布を大切に使ってきました。当店も実は昔は座布団の中に入れる綿を販売していて結構売れたんですが、最近は中国製の安い座布団が出回っておりますし、仕事を持って忙しいのに手間をかけて座布団を作るのがコスパ的全く見合わなくなってしまいました。なんならその販売していた綿よりも中国製の座布団の方が安くなってしまっていますし…。
最後になりますが、今までお話しさせてもらったのは全て正絹の着物のお話です。ポリエステルの着物に関しては仕立て替えやお直しは基本的にできないとお考えください。和裁士さんが反物から仕立てたものでもしっかりと押しを効かせるともうその筋は消えませんし、既製品の着物もメーカーから出荷されるときに熱を加えて縫っていた跡の筋がくっきりついて洗い張りをしても消えません。また、少しでも生地を節約するために縫い代はほぼありません。着物を大切にしたいという気持ちは重々理解した上で申し上げますが、絹物と違ってポリエステルはガンガン着て洗濯機でじゃぶじゃぶ洗って着潰すというのが良さそうですね。 この文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。