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織の着物に染の帯、染の着物に織の帯

公開日:2024/11/15 更新日:2024/11/15
いや、寒くなってまいりました。ちょっとこの前まで夏日だなんだと言っていたのに先週末は一気に気温が下がってしまいました。こう一気に気温が下がると体調を崩す方が多くなってますがいかがされてますでしょうか。私は実はうがいマニアというかなんというか、外に出かけて帰ってはうがい手洗いを欠かさずやっているので今のところ特に体調を崩すなどはありません。50代にもなってしまうと1回体調を崩すと治りにくくて2-3週間ほどグズグズ言って仕事の効率も落ちるので必死の思いで気をつけてるんですよ。 とまあそんなことはどうでもいいです。今週のお題は着物ファンなら一度は聞いたことがあるであろう「織の着物に染の帯、染の着物に織の帯」です。この時期、着物がとても似合う季節ですしお出かけする前日にタンスから着物を出してああでもない、こうでもないと頭を悩ませる時に今日のメルマガを思い出していただければありがたいなぁ、なんて思いながら書いています。あのコーディネートを考えている楽しみは紳士物の着物ではあまり味わえない、彩り豊かな女性ものの着物ならではですよね。 さて、この「織の着物に染の帯、染の着物に織の帯」というフレーズは文面をそのまま見ると織りの着物を着たときには染め帯、染めの着物を着たときには織りの帯を締めましょうという意味なんですが、果たしてこの言葉は本当でしょうか。こんなフレーズを聞いてしまうと、まだコーディネートに自信が持てない方は「紬の着物に織りの帯を締めるのはルール違反なの?」と思ってしまうのは当然ですよね。実際「染めの着物を着るのに染めの帯だったらダメですか?」なんて質問を頻繁に頂きます。 しかしながら、実は結論から言うと決してこの言葉通りではなく、織りの着物に織りの帯を合わせることはありますし、染めの着物に染め帯をすることも当然のようにあります。小紋の着物に塩瀬の染帯なんて定番のコーディネートですし、紬の着物に真綿の紬生地の八寸名古屋帯も綺麗に合いそうです。どこからこういう言葉が出てきたのかわかりませんが、織×織、染×染の組み合わせはダメなんて、全くそんなことないですからね。 ではどうしてこういう言葉が出来たのでしょうか。
ここからはあくまでも私の推測というか主観というか、おそらくこういう意味でできあがった言葉なんだろうな、と思いながら書きますので「こう言った解釈もある」という一つの意見として読んでください。 ここで言う織りの着物とは、紬系のカジュアルな着物を指すと考えて間違いないと思います。紬の着物は元々、きちんと糸の取れる繭が使えなかった庶民が工夫をして作った着物と言われており、あちこちに生糸が絡まったような節ができています。節になると何がダメなのかと申しますと、その部分にだけ染料が溜まって多く染みこんでしまい色の濃淡が起こってしまいます。現代ではその風合いが面白いと言われます(注)が、元々は質の悪い糸を使った着物…つまりカジュアルなんです。今でも一般的にはお茶席に紬の着物を着ないことからもお分かりでしょう。 注:代表的なもので石川県の牛首紬があります。二頭の蚕が一つの繭に入った「玉繭」と呼ばれる繭を使うのですが、二頭が好き勝手に(?)糸を吐くので糸が絡まってしまい綺麗に糸が取れません。ですので昔はクズ繭と呼ばれて安値で取引されていたそうですが、現在はその絡み合った糸の風合いが面白いと通常の糸よりも2割ほど高く取引されるそうです(15年ほど前に牛首紬のメーカーさんに聞きました)。 一方、このフレーズで対比されている「染めの着物」というのは何を指すのかと考えますと、おそらく小紋などのカジュアル系ではなく、訪問着などのフォーマル系の着物を指していると思います。織りの着物がカジュアルを指すのに対して、染めの着物はフォーマルを指している、という図式ですね。 帯についても同じように分類してみますと、織りの帯というのは恐らく金糸や銀糸を織り込んだ帯のことで、これらはフォーマルの装いに使われる帯なので染の着物…つまりここでいうフォーマル用の訪問着などに合わせられます。それに対して染めの帯は金糸等を使わない塩瀬の生地のようなカジュアルな帯だと思って頂いて良いでしょう。そもそも染め帯には金糸銀糸を使ったフォーマルなものって殆どありませんしね。つまり、染めの帯は紬のようなカジュアルな着物に合わせることが多いというわけです。
長い歴史を持つ着物はその時代に合わせて様々なものが作られてきましたが、現代でも消費者の方々にいろんな提案をしておりまして、昔とは違う様々な商品が出てきました。某作家さんの作品には金箔を貼った染帯があり、モダン柄の訪問着にも十分合わせられますし、近年では紬の生地を使用した訪問着もありますし、カジュアルな織りの帯が販売されているのもよく目にするようになりました。カジュアルといえば名古屋帯でしたがこの20年ほどの間に洒落袋(しゃれふくろ)と呼ばれるカジュアル用の袋帯も多く出回るようになりました。 そう考えると、この「織の着物に染の帯、染の着物に織の帯」という格言(?)は現代の着物の実情に少々合わないものとなっているのではないか、と思っています。この格言はおそらくかなり昔にできたものでしょうから、着物ファンの好み、そして作られている着物も多種多様化されてどんどん進化が進んでしまった昨今ではもうすでに古い言葉になっておりますのでいつまでもこういった言葉にとらわれるのはあまり意味がないように思います。ぶっちゃけて言いますとその当時にはなかったような新しいアイテムがたくさん出てきてるのに、何十年前にできたかわからないような、誰が作ったかわからないような、そして真意もよくわからない言葉に振り回されなくてもいいんじゃないですか、ということです。 だって着物だってファッションなんですよ。そしてファッションは毎年のように進化してます。先週書いたようにフォーマルな場のドレスコードもゆっくりではありますが流行がありますし、カジュアルな場でも昔になかったようなアイテムが出現しています。着物の着方や着る人の意識はゆっくりと、そして確実に毎年進化していってるのに、大昔にできた言葉なんて時代遅れになっているのは当たり前ではないでしょうか。
「織の着物に染の帯、染の着物に織の帯」という言葉だけをちょっと聞くとこれがコーディネートの王道なのか?それ以外はルール違反なのかな?染めの着物に染めの帯にしたら笑われるの?なんて思ってしまいますし、着物に興味を持ち始めた方はどうしても外出した時に変な指摘を受けたくない、笑われたくないという意識から安全マージンを多くとってこのような言葉に振り回されがちではありますが、少なくとも「織の着物に染の帯、染の着物に織の帯」という言葉に関しては現代ではそれほど深い意味はなさそうなので、あまりこの言葉にとらわれず、ご自身のセンスを信じてコーディネートしていけばいいのではないか、と思います。 この文章は毎週水曜日配信の当店のメルマガからの転載です。配信ご希望の方は商品購入時にメルマガ配信のチェックを外さないようにお願いいたします。