井出醸造店
美しい山々に囲まれ、“名水の里”としても知られる山梨県。中でも富士山を目の前に臨む富士河口湖町は、富士山を水源とする良質な水が湧く希少なエリアです。この地の名水を活かして古くから日本の食文化に携わり続けているのが富士五湖唯一の酒蔵「井出醸造店」。 江戸時代に始まり、21代愛され続ける老舗酒蔵の当主に、富士河口湖町の酒造りの特徴を伺いました。
井出醸造店の創業は江戸時代の中期。もともとはお醤油屋さんだったと聞いています。昔からこの辺りでは雨水を利用した大豆の栽培が盛んな地域。井出醸造店ではその大豆を原料として味噌や醤油の醸造を行なっていました。その後、お酒造りを始めたのは当家の16代。富士山の麓の水の有り様と、この地の寒い風土に着目してのことだったそうです。
この辺りに湧く富士山の伏流水は、80年ほど前に富士山に降り注いだ雨や雪。富士山は川がありませんから、雨や雪はそのまま地中に浸み込み、長い年月をかけてろ過され、地表に湧き出てきます。富士山は何度も噴火を繰り返したため、何層もの溶岩層が山体の下に自然形成されているそう。つまり、山体の下が大きなフィルターとなっているのです。大きな自然のフィルターを通して、ゆっくりとろ過された水は、汲み上げた瞬間から無菌状態。水は、醤油や味噌をはじめ、あらゆる食品の大元になるもの。美味しい水を使うことで、美味しい醤油やお味噌が完成するのですが、お酒にはもっと影響します。富士山麓の良質な水がある地域で、地元の人の誇りになるお酒を作りたいと完成させた日本酒が「甲斐の開運」でした。今では約40ほどのアイテムがあり、酒蔵内にある売店「酒望子」では、日本酒はもちろん、ウイスキーや梅酒や甘酒、酒粕を使用した食品なども販売しています。
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この地に湧く富士山の伏流水は、ただ良質であるだけでなく、日本酒造りに適した成分の特徴があります。それは、お酒造りの大敵である鉄分が少なく、お酒造りに必要な程よいミネラルを含有したバランスの良い水であるということ。幾重にも重なった溶岩層を流れてろ過される富士山ならではの特徴が、良質な水を作り出しているのでしょう。富士山の水は一切の調整をせずに仕込み利用でき、まさに酒造りに適した水です。
日本酒は、米と麹と酵母を作って造られるお酒。富士山の水が含むわずかなミネラルは酵母の栄養となり、アルコール発酵が進みます。この時、酵母が元気になりすぎると、造り手の予想を超えてしまい思い描いたお酒を造ることが難しくなります。そこで、程よいミネラル量とこの地の寒さが発酵の進行速度をゆっくりに。それによって、雑味の少ない、淡麗系の味わいのすっきりとしたお酒に仕上がるのです。
ところでお酒造りは一般的に寒い時期に（10月末頃から3月にかけて）行われるものです。冬の間に酒造りを行い、春になればひと段落。その酒造りの先頭に立つのが杜氏（とうじ）と呼ばれる人になります。かつては井出醸造店でも日本酒造りが盛んな東北などの寒い地域から杜氏を招き、冬の間に酒造りを行なってもらい、春になったら田舎へ返すという杜氏制度を敷いた酒造りを行っていました。しかしそれでは技術が社員の手に落ちてこない。そこで、私たちのところでは30年ほど前から少しずつ社員を増やし、今では完全に社員だけで酒造りを行うようになりました。
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水の良し悪しをしっかりと理解し、この地ならではの酒造りを続ける酒蔵で在り続けるためには、酒造りの技術が継承されていかなければいけません。そこで目をつけたのが、ウイスキーの醸造でした。10年ほど前から私たちの日本酒も世界的な評価が高まる中、「どうして酒蔵ではウイスキーを造らないのか」と外国人の方から聞かれることがしばしばありました。ウイスキーは蒸留酒。そして、ウイスキーは世界中で愛されながら、日本酒と同じように地域性を色濃く反映するお酒です。また、ウイスキー造りを始めることで、年間を通して雇用の形態を安定させることができるという経営視点のメリットもありました。原材料こそ違えど、お酒造りに関する知識や科学的な根拠への理解の根本は日本酒と共有する点の多いウイスキー。難しいお酒といわれますが、日本酒が造れるのであれば、造れないことはないだろうと私は考え、製造免許を取得。2020年より、「富士北麓蒸留所」としてウイスキー造りをスタートしました。
ウイスキーの蒸留所としては、本当に始まったばかり。ウイスキーは熟成期間を要するお酒ですので、すぐに完成品を販売することは不可能ですが、日本酒と同じく、富士山の伏流水を使用し、この地ならではの酒造りを行っていくことを考えています。地域性をより色濃くするために、ここで蒸留したもの以外はボトルに詰めない。とことん本物志向にこだわり、富士河口湖町が今までにない魅力で輝くような新たなお酒を目指したいと思います。
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私たちの日本酒は、淡麗でありながら、飲み飽きのしないお酒。つまり、食中酒として存分にお愉しみいただける味わいの日本酒です。いつの時代も、メインとして考えるのは、四季折々の旬のある日本の食。お酒は食に寄り添い、食を盛り上げるもので在るべきだと考えています。日本酒というのは、温度差をつけて愉しめる珍しいお酒でもあります。暑い夏の時期には５℃程度に冷やした“雪冷え”で、寒い冬の時期には“飛び切り燗”で。四季のある日本で、季節に合わせて飲み方を工夫しながらお愉しみいただければと思います。
私たちの使命は、お酒を通してこの美しいエリアの価値を高めていくこと。「富士山のお酒、美味しいよね」の声を集めていくこと。そして、日本らしい食文化を支えるお酒を造り続けること。新しい時代の流れと共に日本人の生活スタイルも様々に変化している現代、日本らしさや日本人らしさの見直しが問われているようにも感じますが、日本酒は文化のあるお酒。日本酒のプロとして、食との合わせ方などの提案も行っていきたいですね。
井出醸造店のふるさと納税お礼品