河忠酒造（かわちゅうしゅぞう）「福扇」（ふくせん）ーオール地元産にこだわる酒蔵

新潟県長岡市に蔵を構える河忠酒造は、江戸時代後期に創業し、200年以上の歴史を持つ老舗の酒蔵です。「良酒は良い米と良い水から生まれる」という信念のもと、酒造りに適した環境を活かしながら、伝統と革新を融合させた酒造りを続けています。 酒造りへのこだわり 河忠酒造の仕込み水には、長岡の豊かな自然が育んだ軟水を使用。酒造りにおいて、水の柔らかさは酒質に大きく影響し、まろやかで繊細な味わいを引き出す要素となっています。また、使用する米は地元新潟県産の酒造好適米を中心に厳選し、米の特性を最大限に引き出す丁寧な仕込みを行っています。 地域とのつながりと挑戦 長岡の気候風土に根ざし、地域の農家と連携しながら米作りから関わる酒造りを推進。さらに、伝統の技を大切にしながらも、新たな試みにも挑戦し、熟成酒や限定酒の開発など、多様な味わいを生み出しています。 河忠酒造は、地域に根差した酒造りを大切にしながら、これからも日本酒の新たな魅力を発信し続ける蔵です。

河忠酒造がある長岡市脇野町は、新潟県のほぼ中央に位置し、西山連山のふもとに広がる自然豊かな町です。古くから人々が暮らしていた地域で、縄文時代の遺跡が発掘されるなど、長い歴史を持っています。江戸時代の天明年間には幕府の直轄地となり、代官所が置かれるなど、地域の発展に大きな役割を果たしました。 背後にそびえる西山連山は標高こそ約300メートルと控えめですが、その稜線からは長岡平野や日本海を一望できる美しい景観が広がります。この豊かな自然環境と清らかな水に恵まれた脇野町では、江戸時代から醸造業が盛んになり、酒造りの文化が根付いてきました。

良い酒を醸すためには、蒸し米の仕上がりが極めて重要です。蒸し米の状態がそのまま麹の品質を左右し、ひいては酒の出来を決定づけるといっても過言ではありません。 当蔵では、昔ながらの甑（こしき）を用いた蒸しを採用し、均一に蒸し上げることで、外側がしっかりとしながらも内側はふっくらと柔らかい、麹造りに理想的な蒸し米を作り上げています。 伝統の箱麹製法 麹造りは酒造りの要。手作業による「箱麹製法」を用い、細やかに管理しながら麹を育てています。 1日目：蒸し上げた米を麹室（こうじむろ）に広げ、適温になったら麹菌をまんべんなく振りかけます。その後、米を布で包み、21～22時間かけて麹菌の発芽を促します。この間、麹室内の乾湿の変化によって水分を発散させ、麹の成長に最適な環境を整えます。 2日目：麹を木箱に小分けし、積み重ねて管理。5～6時間後に「仲仕事（なかしごと）」として塊をほぐし温度を均一化。その後さらに5～6時間後に「仕舞い仕事（しまいしごと）」を行い、麹菌が米の内部までしっかりと広がるようにします。 3日目：「出麹（でこうじ）」として麹室から取り出し、乾燥室で保管。 4日目：いよいよ仕込みへと進みます。 すべての工程を手作業で行うことで、麹菌の成長を細やかに管理し、酒造りに最適な麹を仕上げています。伝統の技と手間を惜しまぬこだわりが、酒の味わいを支えています。

自然と共生する酒造り 〜マガモ農法への取り組み〜 この酒蔵では、酒米の栽培に「マガモ農法」を取り入れ、環境に優しい酒造りを実践しています。マガモ農法とは、水田にマガモを放ち、雑草や害虫を食べさせることで、農薬や化学肥料を使用せずに米を育てる自然循環型の農法です。 この農法には多くのメリットがあります。マガモが田んぼを泳ぎ回ることで水が適度にかき混ぜられ、雑草の発生が抑えられるだけでなく、糞が天然の肥料となり土壌の栄養バランスを整えます。その結果、健やかに育った酒米は、生命力に満ちた味わいを生み出し、酒に奥深い旨みをもたらします。 河忠酒造では、このマガモ農法によってJAS認定の有機無農薬栽培を実現し、特に酒造りに適した「高嶺錦」の生産に取り組んでいます。田んぼの管理は、米作りの名手が担当し、これまでにも数々の食味コンテストで優秀な成績を収めてきました。 このように、自然と調和しながら育てた酒米を使うことで、この蔵の酒は単なる飲み物ではなく、環境への配慮や持続可能な農業への想いが込められた一杯となっています。自然の恵みを活かした酒造りを通じて、次世代へと続く豊かな風土を守り続けています。