坂本龍一+高谷史郎
両氏のコラボレーションによる作品5点が展示されます。
坂本が2011年の東日本大震災の津波で被災した宮城県農業高等学校のピアノに出会い、それを「自然によって調律されたピアノ」と捉え作品化した《IS YOUR TIME》(2017/2024)。大自然の営みによって一つのモノに還ったピアノが世界各地の地震データを使って、地球を鳴動する装置として生まれ変わります。
坂本と高谷のインスタレーションには水や霧が重要な要素として繰り返し登場します。2007年に発表された代表作《LIFE–fluid,invisible,inaudible...》(2007)は、坂本のオペラ『LIFE』(1999)をベースとするサウンドに包まれた空間に、頭上に浮かんだ9つの水槽が明滅する中を、庭を散策するようにしばし佇みながら、ゆっくりと歩み、従来のリニアな体験とは異なる時空間の拡がりと流れを体感できるインスタレーション作品です。《water state 1》(2013)、そして本展にあわせて制作された《async–immersion tokyo》《TIME TIME》(いずれも2024)も展示されます。
「async」シリーズ
坂本は、2017年にリリースされたアルバム『async』をきっかけに、同アルバムを「立体的に聴かせる」ことを意図し、Zakkubalan、アピチャッポン・ウィーラセタクン、高谷史郎らとインスタレーション作品を制作しました。
Zakkubalanとのコラボレーション作品《async–volume》(2017)は、『async』制作のために坂本が多くの時間を過ごしたニューヨークのスタジオやリビング、庭などの断片的な映像が、それぞれの場所の環境音とアルバム楽曲の音素材をミックスしたサウンドとともに一つのインスタレーションとして構成された作品です。24台のiPhoneとiPadが壁に配され、鑑賞者は世界に開かれたたくさんの“小さな光る窓”を通して坂本の内面を覗き込むような、あたかも胎内にいるような感覚に囚われます。
タイの映画監督・アーティスト、アピチャッポン・ウィーラセタクンとのコラボレーション作品《async–first light》(2017)において、坂本は「Disintegration」「Life,Life」の2曲を映像用にアレンジしました。「デジタルハリネズミ」と呼ばれる小型カメラを親しい人たちに渡して撮影してもらった映像で構成された本作は、解像度が低く粗い画面に独特の温かみのある色味でそれぞれの私的な日常が切り取られています。
音楽を空間に立体的に設置する「設置音楽」のコンセプトに沿って、アルバム『async』の楽曲を使ったいくつかのインスタレーション作品を制作している坂本と高谷。《async–immersion tokyo》(2024)は、坂本の没後にこれまでの「async」シリーズを深化させた形でAMBIENTKYOTO2023で発表した大型インスタレーションを東京都現代美術館の展示空間にあわせて再構成する新作です。
坂本龍一+真鍋大度
真鍋大度とのコラボレーション《センシング・ストリームズ2024–不可視、不可聴(MOT version)》は、携帯電話、WiFi、ラジオなどで使用されている電磁波という人間が知覚できない「流れ(ストリーム)」を一種の生態系と捉えた作品です。今回の展示のために屋外に16mに渡って延びる帯状のLEDディスプレイを用い、常に変貌を遂げる東京という大都市の目に見えないインフラの姿を映像と音で描き出します。
スペシャル・コラボレーション
1970年に大阪万博のペプシ館を水を使った人工の霧で覆った「霧の彫刻」で知られ、世界各地で霧のプロジェクトを実施している中谷芙二子とのスペシャル・コラボレーション。坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662は、東京都現代美術館屋外のサンクンガーデンを使って、霧と光と音が一体となった、自然への敬愛や畏怖の念を想起させるような夢幻のシンフォニーを奏でます。